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nameが二十歳になってから3日後の、ファーランの誕生日当日。

nameとファーランの誕生祝いということで夕食はいつもより豪華になった。
甘いものが好きなファーランのために、nameは卵を多く使ったエッグタルトを作った。
彼はそれをとても喜んでくれ、リヴァイやイザベルもいつもより豪華な食事に嬉しそうだった。

各々が祝いの言葉やプレゼントを送る中、イザベルが大きなボトルをテーブルに置いた。

「イザベル、それは?」

大人3人はそれを凝視する。

「ファーラン、酒好きだろ。俺からのプレゼントはこれだ!」



19 初めての味



ここにいる誰よりも大人っぽいプレゼントを差し出したイザベルは得意げに笑っていた。
入手ルートはあえて聞かないが、伊達に商人の食糧を盗って食いつないでいただけはあると言ったところだろうか。

「なかなか上物だな」

ファーランはボトルを受け取ると、苦笑しつつも嬉しそうだった。

「だろ!今飲んだっていいんだぜ。みんなで乾杯だ!」
「イザベル、てめえはまだガキだろうが。5年早えんだよ」
「なんだよ兄貴!みんな10代のうちから飲んでるの知ってるんだぞ!」
「ちっ、うるせえぞ」

言い合っている2人を他所にファーランは嬉々としてボトルを開ける。

「あ、グラス出すよ」
「おう、サンキュー」

それを見てnameはグラスを3つ用意した。
ボトルの中身は、リヴァイ、ファーラン、nameのグラスに注がれる。

「nameも飲んでるじゃねえかよーずるい!」
「もう大人だからな、nameは」

リヴァイとファーランがグラスを掲げる。
nameもそれに倣ってグラスを持ち上げた。
まだ不服そうながら、酒を飲むのを諦めたイザベルも普通のドリンクの入ったコップを掲げた。

「「「「おめでとう!」」」」

"大人"という響きはなんだかくすぐったいが、待ちに待っていただけあってやっぱり嬉しい。
なにより、この4人で過ごせていることがnameは嬉しかった。
もし今も元の世界にいたら、友人達が祝ってくれたかもしれないが、これほど楽しい時間は過ごせはしなかっただろう。

今の幸せを噛みしめるように、nameはグラスに口つけた。



─ ─ ─ ─ ─ ─ ─ ─ ─ ─ ─ ─ ─ ─ ─ ─



一度飲み始めたファーランはグラスをどんどん煽っていった。
ボトルはあっという間に空になり、飲み足りない彼は隠し持っていた酒瓶を自室から持ってきて開けだした。
最初は上機嫌だったのに、途中から彼女ができないことを嘆き始め、終いには泣き始める始末だった。

イザベルはそんな彼に対して、「髪型を変えればモテる!」だとか「ヒョロすぎるんだよ!」等々、彼女なりのフォローを入れていた(結果的にファーランは落ち込んでいったが)。

そして、何よりリヴァイを驚かせたのは、他でもない恋人のnameだった。
彼女は一杯目のグラスを飲み干したかと思うと、真っ赤な顔をして上機嫌に笑い出したのだ。
ファーランの寒いボケに爆笑。
イザベルの辛辣なフォローに爆笑。
これまで見たことがないほどにnameは楽しげに笑っていた。
そこまではよかった。

「あははは…楽しい〜。ね〜リヴァイさん」

3杯目を飲み干したあたりから、nameの目がとろんとしてきた。
頬を染め、潤んだ瞳で見つめてくる彼女はリヴァイにとってかなりの破壊力だった。
形の良い唇に笑みをたたえて、気を許したような笑顔を見せてくる彼女に、自分の中の男が誘惑されていった(彼も多少酔っていたせいもある)。



ボトルを開けてから数時間後───。
ようやく静かになった3人を見てリヴァイは溜息をついた。

ファーランはソファの上ですっかり伸びている。
騒ぎ疲れたのか、イザベルももう一つのソファで眠りこけている。

(やっと静かになったな…)

nameはというと。
二人同様、気持ちよさそうに寝息を立てている。
リヴァイの肩に凭れて。

さっきまでの賑やかな笑い声が嘘のように、彼女から発せられるのは規則正しい呼吸音のみ。
頬がまだピンク色に染まっているのは、酔いが覚めていない証拠。
いつも彼を映す瞳は柔らかな瞼に遮られている。
微かに開いている唇が無防備で、リヴァイはそれに触れたくなる。
凭れかかっている彼女を支えて、彼はnameに口付けた。

アルコールの香りがする。
nameとのキスで酒の味がするのは勿論初めてのことだ。
普段あまり酔うことはないのに、彼女とのキスで香るアルコールはリヴァイの頭をぐらつかせた。
身体の中心に熱が集まっていくのを感じる。
昂りに合わせて、口付けも深いものになっていく。

「ん…っ」

nameの口から吐息が漏れる。
それがあまりにも色香のあるものだったので、リヴァイは一度唇を離して、ソファにいる2人を見た。
彼らは変わらず気持ちよさそうに眠っている。

リヴァイは音を立てないようにnameを椅子から器用に抱き上げると、彼女を2階へと運んだ。


彼女の部屋に入りしっかり扉を閉めると、ベッドにそっと降ろす。
リヴァイは煩わしそうにブーツを脱ぐと、彼女に覆いかぶさり、短くなったばかりの髪を撫でた。

吸い寄せられた唇を開け、咥内を舌先でくすぐるように刺激する。
上顎を舐めるとnameは微かに声を漏らし、身を捩った。

「ん…あ」

彼女の甘い声がリヴァイの男をいきり立たせる。
もっとその声を聞きたい。この手で、舌で、自分"自身"で甘く啼かせたい。
湧き上がった激情がリヴァイの手を頬から首、首から肩へと移動させる。
忙しなく肩を撫でると、そのまま双丘へと彼の両手は引き寄せられていく。
指先が僅かに膨らみに触れたところで、リヴァイは薄目を開けた。
nameの瞼は閉ざされたまま、起きる気配はない。

そのまま数秒彼女を見つめたあと、リヴァイは両手を離した。
そして、ゆっくりと唇も離す。
恋人になってから何度とキスをしたが、今日ほど離れるのが名残惜しく感じた日はないかもしれない。

「name」

試しに名前を呼んでみても瞳が開かれることはなかった。
呼吸は穏やかで、意識は完全に夢の中にある。
いくら昂っていても、眠っている彼女にこれ以上のことをするのは憚られた。
リヴァイは自身を落ち着かせるように軽く息を吐くと、ベッドから出ようとした。

「…?」

引っ張られる感覚に、立ち上がろうとしたのを止めて振り返る。
nameの手がリヴァイのシャツの裾を掴んでいた。
起きたのかと思ったが、彼女の瞼は変わらず閉ざされていて、無防備な寝顔のままだ。
無意識に自分を求めてきた彼女に思わず口元が緩む。

「こんなことをするのは酔っ払ってるせいか?」

リヴァイは掴んでいるnameの手をそっと外すと、布団をかけてやった。

「だとしたら、俺以外の前で飲むのは禁止だ」

そう言って髪に口付けると、彼女の口元が綻んだように見えた。
「おやすみ」と一言残し、部屋を後にする。

(さて、あいつらも部屋に運んでやらねえとな)


次の日、nameは初めての二日酔いに苦しみ、皆にそれを笑われるのだった。
どうやって部屋に戻ったのか覚えておらず、曖昧な記憶に彼女が頭を抱えるのは、また別の話。


chapter02 END



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