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人気の娼館トラオム。
地上からの客が来ることもあるこの館は地下街でも敷居の高い場所と言える。

その一番奥の部屋。
最も客を取れる娼婦の部屋に、今宵はとある青年が訪ねていた。



12 宿した光



「満足したの?」

自分に背を向けている彼女のブロンドを眺めながら男は言った。
シェーンは徐に振り返ると、赤い唇で綺麗に微笑んだ。
彼はすぐに目を逸らす。赤は嫌いな色だ。

「全然。あんな年下に負けるなんて、私嫌よ」

一見穏やかな表情とは裏腹に、対抗心と嫉妬心剥き出しの台詞に彼は溜息をつく。

「なんであの男にそこまで執着するのか、俺にはわからないね」
「ハイトも人を好きになればわかるわ」
「…客に恋愛感情持つようじゃ終いだよ」

ハイトは目を伏せると、扉横の壁に寄りかかり腕を組んだ。ここが彼の定位置だ。
この部屋にいるときは絶対にベッドには近づかない。
彼女の、女としての顔や匂いなんかをできるだけ感じたくないからだ。

「あのリヴァイって奴とは何回寝たのさ」
「うーん…2、3回くらいかしら?」
「は!?」

あっけらかんと答えたシェーンの言葉にハイトは耳を疑う。
開いた口が塞がらないとはまさにことのことで、彼は口と目を大きく開けて彼女を凝視した。

「なんだよそれ…たった数回しか会ったことがないのに好きだなんだって騒いでるのかよ…馬鹿みてえ」
「たった数回だけど、忘れられないのよ。あの腕に、胸に抱かれた心地よさが。それに、あの眼」
「眼?」
「一瞬だけど、あの眼の奥に優しさを垣間見た気がしたの」
「…優しそうな奴には見えないけどな」

ハイトが赤毛の少女をつけて家を特定した次の日、初めてリヴァイという男を観察したが、とても"優しさ"なんてものは感じなかった。
地下街で有名なゴロツキのリヴァイは、噂通りの"小柄な無愛想男"そのままだった。

「あの眼を独り占めしているあの女が許せない」

恋は盲目という言葉があるが、今まさに彼女はその渦中にいるのかもしれなかった。
ハイトからすれば、リヴァイとnameの関係は至極普通の恋人同士で、それに割って入ろうとするシェーンの方がずっと許せない女に見える。
彼は堪らず目を閉じて深く息を吐いた。

「リヴァイと一緒になることができたら、思い切ってここを辞めようと思うの」
「…え?」

思いがけないシェーンの言葉にハイトは目を見開く。
ベッドに腰がける彼女の細い背中を見つめた。

「本気で、言ってるの?」
「ええ。収入は思い切り減るし、酒場の仕事だけでは生活は苦しくなる。けど…」
「…?」
「彼と一緒にいられるならそれも耐えられる気がするの。この先ずっと地下街で生きていくことになっても、彼と一緒なら…」
「……!」

シェーンの目に光が宿っているのをハイトは感じた。

親を失くし、2人で地下街に落ちてから、彼女の人生は暗く冷たいものだった。
生きるために男に媚を売り、体を売り、心を売っていく。
化粧で塗り固められた顔は偽りの美しさで輝き、瞳からはどんどん光がなくなっていった。
それを間近で見てきた彼は自分達の運命を何度呪ったことか。
この館も部屋もベッドも、何より男を誘うような彼女の赤い口紅の色が大嫌いだった。

「だから、あの女にはいなくなってほしい。リヴァイに私だけを見てもらいたいの」

正直、あのリヴァイという男はいけ好かない。
けれど、あんな男でもシェーンをこの暗闇から救ってくれるなら、もう充分だった。

ハイトは心を決めたように拳を握り、口を開いた。

「俺に考えがあるよ、姉さん」



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