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パシュッ、パシュッとアンカーが放たれる音が何度も路地に響く。
イザベルは重力に逆らい、建物の上までどんどん登っていく。
一番上の方まで行くと、下にいる3人に手を振った。

「今の動きかっこよくねぇー!?」

嬉しそうに手を振るイザベルに、nameとファーランは笑いながら手を振り返した。



08 鈴の音



イザベルが仲間になって二週間が過ぎた頃。
リヴァイとファーランは毎彼女の立体機動の練習に付き合っていた。
初日こそ上手くできないと落ち込んでいたイザベルだったが、元々の筋が良いのか、メキメキと上達してだいぶ飛べるようになった。

そんな彼女の練習の成果を見るため、nameは見学に来たのだった。


イザベルは下まで戻ってくると綺麗に着地し、活力に満ちた笑顔を見せた。
息が上がり、肩を上下させている。

「name、さっきのかっこよかっただろ!?」
「うん、あっという間に高くまで飛んでいってかっこよかったよ」
「だろだろー!俺センスあるよな!」
「馬鹿が。息を上げすぎだ」

鼻高々に自慢をしていたイザベルは、きっぱりとダメ出しをしたリヴァイをむっとした表情で睨んだ。

「変な力が入ってるから息が上がる。お前は自力で飛んでるわけじゃねえ。もっとワイヤーを巻き取るときの自然の力に身を任せろ」

リヴァイの言う通り、普通に立体機動で飛ぶだけならこれほど息が上がることはない。
イザベルはワイヤーを巻き取る時に力む癖がある。たった一瞬の癖だが、何度も繰り返せば全身の筋肉に負荷がかかる。
その他にも無駄な動きが多いせいで、彼女はすぐに息切れを起こしていたのだ。

リヴァイの指摘にぐうの音も出ず、イザベルは肩を落とす。
彼の指摘はいつも的確だ。
落ち込んだ様子を見かねて、nameは彼女の綺麗な赤毛を撫でた。眉を下げた表情はまるで子犬のようで、いつも母性本能をくすぐられる。

「イザベル、たった二週間でここまで上達したなんて凄いよ。練習すればきっともっと上手く飛べるようになるんじゃないかな」
「そうかな…?」
「うん、だから、リヴァイさんのアドバイスの通りにもう一度やってみたら?私もイザベルが飛んでるところまた見たいし!」

ね?と笑いかけると、やる気を取り戻したイザベルは歯を見せて笑い返した。

「よーし、もっと上手く飛んでやる。兄貴とファーランも見てろよ!」

イザベルは再びアンカーを放つと、高くまで飛んで行った。
その背中を見つめていると、ファーランとリヴァイも彼女の横に並んでイザベルの立体機動を眺めた。

「name、すっかり姉さんって感じだな」
「うん、一人っ子だったから妹ができたみたいで嬉しくて、つい可愛がっちゃう」
「それはいいが、あまり甘やかしすぎるなよ。昨日の晩飯でもパンをあげすぎて今朝の分がなかっただろうが」
「あはは…それは私も反省です」

イザベルは成長期真っ只中。
そして、絶賛食べ盛りである。
飢えた生活をしていたこともあってか、いつもがっつくように食事をする。
あんまり美味しそうに食べてくれるものだから、イザベルがおかわりをほしがるとつい沢山盛ってしまっていた。

そして、昨晩はパンをあげすぎたせいでストックの分がなくなってしまった。
それに気づいたのが朝だったため、一から捏ねて焼く時間もなく、今朝の朝食はスープとサラダという低カロリーなものになってしまった。

そんなnameの「甘やかし」のお陰か、出会った当初は痩せ型だったイザベルはかなりふっくらとしてきた。
よく食べよく運動しているので、程よく筋肉も付いてきて、かなり健康的な体になってきている。
今朝のパンの件を反省しつつも、イザベルがどんどん元気になっていくことの方がやっぱり嬉しかった。


「今日は外で食べて帰るか」


イザベルの立体機動を眺めながら、リヴァイがぽつりと言った。

「珍しいな、リヴァイ」
「たまにはいいだろう。nameも構わないな?」
「はい、外で食べるの久しぶりですね」

外食の提案はnameにとって、正直有難いものだった。
思っていたよりも練習が長引いたので、今から帰って食事の用意をすると、食べるまでにかなり時間がかかる(パンを焼くならなおさらに)。
それに、この世界の料理を食べることは、今後の調理の参考になるので嬉しかった。



***



店に入ったリヴァイは、空席を探すために店内を眺めた。
リヴァイとファーランの行きつけだったこの店は、彼らが最後に来た時に比べて雰囲気が変わっていた。
以前はゴロツキたちの溜まり場だった店内は少し小綺麗になり、客層は商人の方が多い様子だ。

リヴァイは空席を見つけるとそこへ進み、3人もそれに続く。
丁度4人掛けのテーブルが空いていた。


「わあ、綺麗なお店ですね」


店内を見渡しながらnameが感嘆の声を上げた。
壁の所々には絵画が飾られ、テーブルには花がいけられている。

「随分雰囲気が変わったな」
「ああ、店主が変わったのかもしれねえ」

リヴァイとファーランは少し居心地悪さを覚えながら客達を見た。
地下街の人間でも、商人は身なりを綺麗にしている者が多い。地上への階段を管理しているなら特にそれが顕著だ。
今日の客にそれほど目立つ者はいないが、どちらにせよ、生業が違う彼らにとってあまり良い気分ではない。


「name、フード脱がないのか?」


テーブルに付いてもフードを脱ごうとしないnameに、イザベルが不思議そうに尋ねた。


「うん…念のためね」


nameは困ったように笑うと、ちらりとリヴァイを見た。
彼女と目が合ったリヴァイは小さく首を振った。

「寛げないなら脱いでも構わねえ。だが、一人で出歩くなよ」

リヴァイの忠告に頷いてフードを脱ぐ。
そのやり取りを見ていたイザベルは、やっぱり不思議そうだった。

「何食べましょうね」

nameはメニュー表を広げて3人に見せる。
イザベルは目を輝かせながら食事の欄を見つめた。

「とりあえず酒だな」
「おう!」
「お前はまだガキだろうが。普通のドリンクにしろ」

酒だ酒だと盛り上がるファーランとイザベルを、リヴァイは眉間に皺を寄せて注意する。
けれど、彼は不機嫌な様子ではなく、寧ろこの愉快な雰囲気を楽しんでいるようだ。
なんだかんだ、この3人も良いチームワークになるかもしれないとnameは思った。

何にしようかとnameはメニューを眺める。
すると、後ろから鈴の鳴るような声が聞こえた。


「久しぶりね、リヴァイ」



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