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「#幼馴染」のBL小説を読む
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イザベルが全員と挨拶を済ませ、さあ夕食だとnameが準備しようとしたのをリヴァイは素早く止めた。
そして、鋭くイザベルを睨みつけると風呂場を指差し、「まずは風呂に入れ」と言った。
イザベルは先に飯がいい!と訴えたが、汚い状態でこれ以上家の中を出歩くことを許さなかったリヴァイは、有無を言わせず風呂へと直行させた。

何となく不安になったnameが様子を見に行くと、案の定イザベルは水洗いだけで済ませようとしていた。
困ったように笑いながら石鹸を泡立て赤髪を洗い始めれば、イザベルは気持ちよさそうに瞼を閉じた。

頭のてっぺんからつま先まで綺麗になったイザベル。
無事夕食も済ませ、nameの服を借り、彼女はnameの部屋で眠ることとなった。
この家にはもう空き部屋がない。
服は後々揃えるとしても、部屋の問題はどうしようもなかった。

ベッドはシングルサイズなので少々狭いが、女子2人が寝れないことはない。
部屋に案内されたイザベルは嬉しそうにベッドに飛び込むと、久しぶりのシーツの肌触りを楽しんだ。



07 恋人なのに



諸々の家事を済ませ、シャワーを浴びたnameは水分を含んだ髪をタオルでよく拭いた(イザベルを洗ってあげたときは手伝っただけなので自分は浴びていない)。

二階へ上がると、腕を組んだリヴァイが壁を背に凭れ掛かっていた。
廊下の暗がりの中で鋭く光って見える双眼がじろりとnameを捉えた。
どうやら彼女が上がってくるのを待っていたらしい。


「リヴァイさん、どうしたんですか?」


リヴァイから威圧的な雰囲気を感じつつ、恐る恐る近づく。
イザベルの風呂や食事に追われていて気づかなかったが、彼はまだ負のオーラを引き摺っているようだ。

「リヴァイさん…?」
「…………」
「…!」


リヴァイは無言のまま見据えたかと思うと、素早くnameの腕を掴み彼女の体を壁に押し付けた。
背中が壁にぶつかる衝撃があったが、痛みはない。
リヴァイは片手を壁に付き至近距離でnameを見下ろすと、彼女の顎を親指と人差し指で持ち上げ、噛み付くようにキスをした。


「…っ」

一瞬のことで目を瞑るのも忘れてしまった。
口付けがいきなり深いもので始まったのに驚き思わず顔を背けそうになるが、彼はそれを許さず耳元に手を添えて顔を固定させた。
荒々しく咥内を動き回るリヴァイの舌が逃げるnameの舌を追う。柔らかな彼女の舌を捉えると、リヴァイはそれを強く吸った。

熱っぽい口付けに翻弄され、体から力が抜けていく。
すっかり受け入れたように大人しくなったnameの咥内を存分に楽しむと、リヴァイはゆっくりと唇を離した。
潤んだnameの瞳と視線が絡まる。リヴァイはごくりと喉を鳴らして目を逸らすと、彼女を強く抱きしめた。


「馬鹿野郎、勝手なことしやがって」
「……はい、ごめんなさい」


nameはリヴァイの背に手を回すとぎゅっと抱きしめ返した。
耳元で響いた低音は決して怒りに満ちたものではなかった。
きっと、とても心配してくれたであろう彼に申し訳なさを感じる。
リヴァイはそっとnameを離すと、まだ乾ききっていない前髪を軽く撫でた。

「本来なら他人が敷地に入ってきた時点ですぐに家に戻るべきだった」
「…はい」
「だが、お前の性格を考えると、あの状況じゃ見捨てるなんて選択肢はなかったんだろうな」
「あのままだとイザベルは死んでいたかもしれません。約束を破ったことはごめんなさい。けど、自分の選択が間違っていたとは思いません」
「ああ、お前は間違ってねえよ」

nameの強い眼差しに、複雑な思いがリヴァイの胸で渦巻く。

イザベルがシーツの向こうから現れたという瞬間、他にどれほどの危険があろうと、彼女は自分の信念を曲げずにイザベルを助けただろう。
それがどんな恐ろしい結果になったとしてもnameは受け入れてしまったかもしれない。
そんな彼女の優しさをリヴァイは危うく感じた。


「name、お前はこの家が狭いと感じたことはあるか?」
「…え?」


唐突な質問に問符が浮かぶ。
直前の会話と何の脈絡のない質問だった。
とりあえず質問の通りのことを考えてみるが、nameはこの家を狭いと感じたことは一度もなかった。ここは彼女が一人暮らしをしていた部屋よりずっと広いのだ。

「いえ、一度もないです」

nameはきっぱりと言い切った。
リヴァイは考え込むように眉間に皺を寄せ沈黙した。
そして、徐に彼女の顔を囲むように両手を壁に付くと、耳元へ唇を寄せて呟いた。


「この暮らしはお前にとって不自由か?」


nameは僅かに目を見開き、実にゆっくりとした動作でリヴァイの顔の方へ首を動かした。
彼の横顔をまじまじと見つめるが、表情から考えていることは窺い知れない。

何故、急にそんなことを───。


nameが口を開きかけた瞬間、リヴァイはすっと身を引き、彼女から離れた。
困惑の色が滲むnameの目から顔ごと視線を逸らすと、背を向けた。


「今のは忘れろ」


それだけを言い残すとリヴァイは自室へと戻り、扉を閉めた。
バタンと閉まった扉の音を最後に、廊下には静寂が訪れる。
壁に凭れたまま廊下の闇をぼんやりと見つめると、小さく息を吐いて肩の力を抜いた。


(この暮らしが不自由か…?)


さっきの質問を頭の中で反芻する。
リヴァイにその質問をされたのは初めてのことだった。
単純な生活苦を聞いているような感じではなかったし、ここの生活にもすっかり慣れた今、そんなことを聞くわけもない。

そして、先ほどのリヴァイには違和感を覚えた。
質問の意味はわかるのだが、歯切れが悪いというか、何を聞こうとしているのか要領を得ない様子だった。

もやもやとしたものが胸に広がる。
こんな気分にさせておいて「忘れろ」の一言で姿を消すなんて。
何だかリヴァイが狡く思えてきた。
あんな聞き方をされて忘れられるわけがない。

正直なところ、気になるなら問いただしてしまえばいいのだ。
"恋人なのだから"それくらいしても問題ないはずである。
nameはリヴァイの部屋の扉の前まで行くと、軽い拳でノックをしようとした。
しかし、その拳が訪問の音を鳴らすことはなかった。


(駄目だ…聞けない)


拳を解くと、nameは肩を落とした。
いざ聞こうと思っても、直前になると怖気づいて何も聞けない。
これでは、さっきの彼と同じようなものではないか。

言いたいことが言えないということは、お互いにまだ気を使い合っている証拠でもある。
事実、nameは未だにリヴァイのことを"さん付け"であり、敬語を崩すこともできないでいる。
リヴァイのことは間違いなく好きだ。
彼の気持ちもちゃんと伝わってきている。
なのに、どこか確信めいたものがないままだった。

そして、リヴァイがキス以上のことをしてこないのも、余計にnameの胸をもやもやとさせた。
"恋人なのに"、自分達の関係は中途半端なものに思えて仕方がなかった。



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