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風呂上がりにソファでうたた寝していたファーランは、玄関の扉が乱暴に開けられた音で目を覚ました。
体を起こすと、丁度リヴァイと目深くフードを被ったnameが入ってきた。

「…!おい、どうしたんだよそれ!」

nameの頬やマントに付いた血痕を見たファーランは驚いて声を上げた。
俯いたままnameは何も答えない。

「騒ぐな。怪我はしてねぇ」

リヴァイは脱衣場へとnameを押し込むと、自分も中へ入り強く扉を閉めた。
静寂が再びファーランに訪れたが、彼の胸中はもう穏やかではなくなっていた。



04 彼の努めと彼女の努め



「マントを脱げ」

リヴァイは買い物袋を奪うと、さっき買ったばかりの固形石鹸を一つ取り出した。
nameはフードを脱いで、マントの留め具に手をかけるが、指先が震えているせいで思うように外せない。
焦れったくなったリヴァイが手をかけると釦は簡単に外れ、マントは重力に従ってばさりと落ちた。

ブラウスやスカートはマントに守られていたため血を浴びることはなかったようだ。
見えるのは頬に付いた血痕のみ。
白い肌に対して強烈に映えて見えるその赤に苛立ちを覚え、リヴァイは眉間を寄せた。

nameの腕を引っ張ると浴室に入れた。
シャワーヘッドを彼女に向けて蛇口を捻ると、勢いよく水が出た。

「冷た…っ」

顔から上半身にかけて冷たい水がかけられる。
急激な寒気を感じて思わず手で水を遮ろうとしたが、その手はリヴァイに掴まれてしまった。
冷水は徐々に温水へ変わり、下がりかけたnameの肌を温める。

リヴァイは一度シャワーの勢いを弱めると、石鹸とお湯で泡立てた。
充分に泡立ったのを確認すると、蛇口を閉めて完全にお湯を止める。
そして、泡の付いた手でnameの右頬に触れた。

「よく洗わねぇとな。汚れが広がっちまう」

頬をなぞるようにリヴァイの親指が左右に動く。
勿論、彼はただなぞっているわけではなく、血痕が消えるように念入りに洗っている。
さっきのお湯で殆ど流れたというのに、何度も指を動かした。

やがて頬の汚れは落ちたと満足したのか、その手をつつ、と首へと下げた。
首に触れられる感覚にnameはぴくっと肩を揺らした。

「ちっ…痕になってやがる」

nameの首元には僅かに首を絞められた痕が残っていた。
もっとも、あの男は本気で絞めていたわけではなかったので、この痕はうっすらとしたものだ。

リヴァイは両手でnameの首を包むようにすると、泡で手を滑らせながら洗った。
泡によってぬるぬると上下に動くリヴァイの手は、時折彼女の耳元にも触れる。
その度にくすぐったいような感覚になり、nameは身をすくめた。

肌を刺激されることでnameの頭は段々と冷静になり、今の状況が普通でないことに気づき始めた。
浴室に二人っきり。それも、服を着た状態で肌を洗ってもらっている状況は、あまりにおかしな光景だった。

「あの…もう、自分でやります。リヴァイさんも濡れちゃうし」
「もう終わる…流すぞ」

再びシャワーヘッドから温水が流れ、nameの頬、首から泡を流していく。
すでに濡れてしまっている服は更に水分を吸収して重たくなる。

温かなお湯が身体の緊張を解していく。
nameは壁に背中からもたれると、力が抜けたようにその場にへたり込んだ。

「…おい」

リヴァイは急に座り込んだnameに驚くと、シャワーを止めて自分もしゃがみ込んだ。
そして、彼女の顔色を窺う。

「今頃気分が悪くなってきやがったか」
「リヴァイさん…」
「何だ」
「ごめんなさい、私の、不注意で…」
「…脱げた時点で注意しなかった俺にも非はある。もう謝るな」

nameはぎゅっとリヴァイの腕を掴んだ。
リヴァイがナイフを振り上げた時、感じたことのない恐怖を味わった。
彼の手つきには慣れがあったし、躊躇いも感じさせなかった。
恐らく、初めてではない。
リヴァイがこれまでどんなことをしてきたのかはわかり得ないが、あそこで人を殺めるのを見届けるなんてことはnameにはできなかった。
そして、万が一それを目の当たりにしたとき、自分の中で何かが変わってしまうような気がして恐かったのだ。

「俺がこわいか」

まるで心を読まれたかのような問いかけにnameははっと顔を上げる。
リヴァイはいつもの無表情、のはずなのに、少し悲しげに見える。

「あの瞬間は、少し」
「…そうか」
「リヴァイさんは人を殺したことがあるの?」
「必要があればそうしたこともある」
「…………」
「受け入れられないか」

"受け入れる"というのはとても難しいとnameは思った。
普通に考えれば殺人は許されない。自分の中にある倫理観がそれを良しとしないのだ。
けれど、これまでnameが目にしたことがなかっただけで、この地下街という異端の場所においてはそういうことも多くあるのかもしれなかった。
そう、自分が目にしなかっただけで。
皆、生きるために必死だから。
でも───。

「殺しは、してほしくありません」

nameは声を震わせながら、けれど、しっかりとリヴァイの眼を見て言った。
自分の大切な人が誰かを殺すなんてとてもじゃないけど耐えられない、というのが本音だった。
これまでリヴァイのやり方に対して否定的なことを言わずにきたが、こればっかりはnameも自分の考えを曲げるわけにはいかなかった。

リヴァイはnameの言葉を飲み込むように唾を飲むと喉を鳴らした。
そして、小さく息をつくと、彼女の頭に手を乗せた。

「なあnameよ。俺は、お前や仲間の命を危険に晒すような奴がいれば、躊躇なく殺す。だがな、好きで殺しをやるわけじゃねぇ。俺は俺の大事なものを守るためにナイフを振るう」

リヴァイは彼女に言い聞かせるように、静かに言葉を紡ぐ。

「お前が俺に殺しをしてほしくないと言うのなら、その希望に添うようできるだけ努めてやる。だから、お前は自分の身の安全を考えて行動しろ。もし、それでもお前の命に危害を加える奴がいて、そいつと俺が対峙することになったときは……覚悟を決めろ」

リヴァイは真っ直ぐにnameを見つめる。
強い意志と決意を宿した眼だった。
"覚悟を決めろ"という言葉が胸に重くのしかかる。
そんな覚悟をしなければならない日が来るなんて考えたこともなかった。

誰だって殺しなどしたくない。それはリヴァイも同じ。
けれど、仲間と生きていくためにはその選択をしなければならない時もある。
大切なものを守るための苦渋の"選択"を───。

この地下街はそういう街だ。
リヴァイとファーランが、このごみ溜から這い上がりたいと強く思い続けてる理由が、本当の意味で理解できた気がした。
リヴァイの言う覚悟も。
けれど、やっぱり納得はできないので。

「わかりました。リヴァイさんが人を殺さなくて済むように、私も"努め"ます」

彼が仲間を守るためにナイフを振るってしまうのなら、守られなければいい。
力のない自分は戦うことはできないけれど、身を隠しながら生きていくことはできる。

「外に出るときは、今までより慎重に過ごすようにします」
「ああ、そうしろ。お前にできるのはそれだけだ」
「毎回、流血沙汰で、服を着たまま体を洗われるのも大変ですからね」
「別に脱がしてやっても構わねぇが?」
「な、な…!」

リヴァイは軽く冗談を言ったつもりだったが、真に受けたnameが動揺して顔を赤らめたのがおかしかったので、口の端を上げてくしゃりと頭を撫でた。
そして、徐に空いている方の手をnameの口元へ寄せると、親指と人差し指で彼女の口を開かせた。

「!?」

突然のリヴァイの行動にnameは目を見開く。
だが、まん丸く開かれた瞳よりもリヴァイの指に支えられている口の方が大きく開かれている。

「ここは汚されてねぇだろうな」

リヴァイはわざとらしく口内を覗き込むようにして言った。
口の中を見られるというシチュエーションに羞恥心を覚えたnameは、拒むようにリヴァイの腕を掴んだ。

「な…なにもされてまふぇん…!」
「は…念のためここも洗ってやるよ」

nameの言葉があまりに間抜けだったので、思わずリヴァイは笑うと、ぱっくりと開けられた彼女の口に自身の舌を差し入れた。

「んぅ……っ!?」

舌先、上顎、歯列など、口内の隅々まで確かめるようなリヴァイの舌の動きはいつものキスとは違う快感をnameに与えた。
同じ箇所を行ったり来たりする彼の舌は本当にそこを洗っているかのようだった。

唇と唇の隙間から、混ざった唾液が零れる。
快感で思わず身を引こうとしても、壁に背を預けている状態なので逃れることはできない。
いつもと違う状況とリヴァイの舌の動きに身体はどんどん熱を上げ、切ないような感覚が湧き上がってくる。
nameはもどかしそうに膝を寄せて息を荒くした。

それを目の端で捉えたリヴァイは口を開けさせていた指を離し、綺麗になったばかりの彼女の頬に手を添えると口付けをより深くさせた。



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