01 新しい年
3人は雑踏の中にいた。
ここにいる人々の誰もが何度も時計を確認しながら、今か今かとその時を待っている。
コチ、コチと動く時計の二本の針が0時を指したとき、雑踏は大きく沸いた。
「明けましておめでとうございます!」
nameが嬉々とした様子でフードの下から笑顔を覗かせた。
独特の言い回しにリヴァイとファーランは首をかしげたが、元の世界の新年の挨拶だとアイラが説明すると、納得したように頷いた。
「それにしても、すごい人。こっちの世界も新年はお祝いごとなんだね」
「祝いごとっつーか、なんつーか」
「何かにつけて飲みたいだけだ」
「ああ、それだな」
かく言うファーランとリヴァイも、酒の入った木製ジョッキをさっきから煽っている。
12月31日。もう日付は変わり1月1日だが、3人は繁華街に来ていた。
年越しをどうやって過ごすのかとnameが聞いてきたので、ファーランはチャンスとばかりに繁華街を提案した。
飯は美味くないが、酒なら手頃に飲めて不味くない。それに、中には美味い屋台もあることにはある。
それを聞くとnameは繁華街へ行くことに賛同した。酒だ屋台だと言っているが、2人とも年越しの気分を味わいたいだけだったのかもしれない。
繁華街の混み具合を知っているリヴァイは露骨に嫌そうな顔をしたが、盛り上がる2人に根負けして一緒に行くことにした。
「お!あそこの屋台美味いんだ。nameも食べたいだろ?」
「うん、食べてみたい!」
「じゃあ買ってきてやるからリヴァイと待ってろな!」
そう言うとファーランは目的の屋台へと走っていった。彼はそろそろつまみがほしい頃だった。
美味いというだけあり人気店なのか、人だかりができている。買うのに時間がかかりそうだ。
「ファーラン楽しそう」
「あいつは意外に賑やかなのが好きだからな」
「だから繁華街に行きたがってたんですね」
「お前も行きたがってるように見えたがな」
「あはは…バレました?」
nameは賑やかなのが好きというわけではないが、せっかくなので年越しらしいことをしてみたかったというのが本音だ。
この雑踏の中にいると初詣に来ているような気分になる。
「おい、あちこち見てはぐれるなよ」
「はーい」
リヴァイの忠告する声に軽く返事をしながら、nameはキョロキョロと周りを見ている。
言ったそばから聞いちゃいねぇ、とリヴァイは溜息をついた。
すると、丁度nameの見ていない方向から歩いてきた男が彼女にぶつかった。
「わっ…」
衝撃でよろけたところを、リヴァイが手を掴んで支える。
「ちっ、だから言っただろ」
「ごめんなさい。つい」
「ふん…このまま俺から離れるな」
リヴァイは掴んだ手をしっかりと繋ぎ直すと、雑踏から守るようにnameを引き寄せた。
nameがすまなそうな顔をしたので、ポンと頭に手を置いて不慣れに撫でつけると、彼女は照れたように笑った。
フランクフルトを3本持ったファーランは、2人から少し離れたところで立ち尽くしていた。
(戻りにくい雰囲気になってんじゃねえよ!)
内心で悪態をつきつつ、戻れるタイミングを見計らうように2人の様子を見る。
リヴァイの誕生日以降、恋仲になったであろう彼らは自分の目から見てもお似合いだった。
特に、リヴァイのあんな優しげな顔なんて見たことがないし、自分に向けてくれたこともない。
まあ…name以外に優しくするリヴァイは気持ち悪いだけなのだが。
(妬けるぜ、まったく)
とうとうnameを独り占めしてしまったリヴァイに嫉妬の気持ちがないと言えば嘘になる。
けれど、自分は彼らの仲間であり、2人の関係に関して言えば傍観者にすぎない。
そう決めたのは他でもない自分自身だ。
2人が恋仲になったとしても、3人でいられればそれでいい。
「待たせたな!」
「あ、ファーランおかえり」
ファーランが戻ると、リヴァイはそっと繋いでいた手を離した。
それに気付かないふりをして、ファーランはフランクフルトを2人に渡す。
「name、お前の世界では年の始めに一年の目標を決めるんだったよな?」
「そうそう、抱負ね」
「俺は844年の抱負を決めた!」
「何にしたの?」
それは…と区切ってファーランは顎に手を添える。そして、めいっぱいのキメ顔をして言い切った。
「彼女をつくる!」
「「…………」」
3人の間にぴゅうっと寒い風が吹いたような気がした。
謎の沈黙が流れたあと、nameが「が、頑張れー!」と言って笑った。
ファーランは任せておけ、と親指を立ててまたキメ顔をした。
それが更にnameの笑いを誘い、つられてリヴァイも軽く笑った。
これでいい。3人で笑い合う時間が何よりも好きだ。
(今年も3人でいられるといいな)
楽しげな笑い声をつまみに、ファーランは酒を煽った。