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「#幼馴染」のBL小説を読む
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夜風が2人の頬を撫でる。
真冬の風は冷たいはずなのに、火照ったnameの頬には丁度よく感じられた。

俯いている彼女へとリヴァイの手が伸びる。
その気配を感じたnameはそろりと顔を上げた。
瞬間、彼の腕に力強く引き寄せられた。

黒髪がふわりと揺れ、石鹸の香りがリヴァイの鼻腔をくすぐる。
そういえば初めて会った時も彼女からはいい匂いがしていたと、彼は思い出した。



18 求める心



「好きです」

要領を得なかったnameの言葉。
しかし、その一言だけは凛と響いた。
リヴァイは表情こそ大きく変わらなかったものの、内心ではとても驚いていた。
滅多に早ることのない心臓が忙しなくなるのを感じながら、自分もこうした一面を持つ男だったのかと思った。

嬉しさが胸に広がるのと同時に、彼女を抱きしめていた。


「リヴァイ、さん」

腕の中でnameがか細く名前を呼んだ。
リヴァイは彼女の肩に手を置き、そっと身を離した。
見上げる黒目が揺れている。
月明かりを受けた漆黒は綺麗だった。
リヴァイは彼女の頬に手を添えた。


「name、俺もお前が好きだ」


nameの目が見開かれる。
瞬きを数回繰り返した。
そして沈黙が続いた。
言葉が出ないのは、もしかしたらまだ実感が足りないのかもしれない。
ぽかんと開いた口がどうにも間抜けで、リヴァイの笑いを誘った。

「ふっ…呆けた顔しやがって」
「えっ、あ、ええと…本当ですか…?」
「お前、俺がこの状況で冗談を言う奴に見えるのか?」
「みっ見えません!ただ、信じられなくて…!」

nameは慌てて首を振った。
ついさっきまでの呆けた表情が息を吹き返したようにころころと変わる。

(リヴァイさんが、私を?)

nameは口元を押さえた。
これは夢ではないかと、リヴァイの言葉を何度も頭の中で繰り返す。
見つめてくる彼の眼は真っ直ぐで、冗談めかしているものではない。
少しずつ冷静さを取り戻した彼女の胸に実感がわき始める。
ほうっと息を吐いた。

「落ち着いたか?」
「…はい、なんとか」
「ならいい」

リヴァイはそれきり口を閉ざした。
nameも何も言わない。
ただ、視線だけが絡み合っている。
垂れ下がる前髪の奥で、リヴァイの眉が悩ましげに寄せられた。
nameはどきりとした。
初めて見るその表情は切なげで、そして艶かしいと感じた。
さっきと雰囲気が違う。
遠慮がちにnameは口を開いた。

「そろそろ戻りますか…?」
「…ああ」

了解したものの、彼は動こうとしなかった。

「……リヴァイさん?」

首を傾げるnameをリヴァイは黙って見下ろす。
無表情の仮面の下で、彼はさっきから崩れそうになる理性と戦っていた。
ふつふつと欲求が湧き上がる。
彼女に触れたいと、彼の中の雄が爪を立てていた。

リヴァイは彼女の肩を掴んで引き寄せた。
nameが緊張しているのがわかる。
できるだけ優しく、彼女の頬に触れた。
そこは熱を帯びていた。

「…name」

リヴァイの掠れた声に呼ばれ、彼女も悩ましげに眉を下げた。
揺れる瞳には不安と期待の両方があるような気がした。
頬に手を添えたまま彼は顔を寄せる。
nameは静かに目を瞑った。
それを了承と解釈したリヴァイは、優しく、そっと口付けた。

初めて触れたnameの唇から緊張が伝わってきた。
リヴァイは何度も唇を重ね、それを解すように啄んだ。
次第にnameの体の力が抜けていき、口の端から吐息が漏れた。

「…ん」

彼の普段の粗暴さからは考えられないような、紳士的なキスだった。
甘い口付けに酔いしれ、nameは恍惚とする。

(気持ちいい…)

彼女は素直にそう思った。
過去にも異性とキスをしたことはあるが、こんなにも優しく溶かしていくようなキスは初めてだった。
一方で、慣れを感じさせる動きにリヴァイの女性遍歴を見た気がして、僅かに胸がチクリとした。

「ん…っ」

nameの吐息に艶かしい色がついた。
それを機会とばかりに、リヴァイは舌を差し入れた。

「っ、んぅ…!」

nameは思わず身を引いたが、リヴァイはそれを許さず彼女の後頭部を固定した。
官能的なものへと深まっていく口付けに身体の芯が熱くなる。
キス以上の男性経験がないnameにとって初めての感覚だった。
戸惑いと快感の狭間で身を震わせる。
堪えきれずリヴァイの腕を掴むと袖に強い皺が寄った。
それに気づいた彼は名残惜しそうに唇を離した。

焦点が合わない距離で見つめ合う。
潤んだ彼女の瞳がリヴァイを扇情させた。

お前の何もかもを俺のものにしたい。

出かかった言葉をリヴァイは飲み込んだ。
このままだと欲求の獣に支配されそうだ。
彼はnameから目を逸らし、深く息を吐いた。
自分を落ち着かせるように。

「……帰るぞ」
「は…はい」

彼の一言で色香ある時間は終わりを告げた。
リヴァイは背を向けると、来た道を戻り始めた。
nameは静かにそれを追った。
彼との距離はほんの少し。
さっきまで密着していたせいか、その小さな距離すら遠く感じた。
寂しい、とは流石に言えない。

するとリヴァイは、暗がりに入る直前で立ち止まり、振り返った。
そして、手を差し出す。

「え…?」
「なんだ、帰りは自分で歩けるのか」
「…!」

nameは飛びつくようにその手を掴んだ。
素直な反応にリヴァイはふっと笑って、彼女の手をしっかりと握り返す。
触れた手はやはり温かかった。

「あの場所は気に入ったか」
「はい、素敵な場所ですね。久しぶりに月を見れて嬉しかったです」
「そうか。なら、また行きたくなったら連れてきてやる」
「……リヴァイさんが」
「なんだ」
「リヴァイさんが行きたくなったときも、連れて行ってくださいね」
「…ああ」

来たときと同じように中は暗いのに、nameはあまり怖くなかった。
こうして手を繋いで歩いていることが嬉しくて、帰るのが惜しい気分だった。

振り返ると、月明かりがぼんやりと遠くなっていくのが見えた。
ここを出れば自然の明るさを失い、また常灯の世界へと戻る。
不思議と気分は沈まないのは、リヴァイがいてくれるからに違いない。

今夜は幸せな夢が見られる気がする。
そう予感しながら、nameは微笑んだ。


chapter01 END




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