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12月に入り、nameはこの世界で初めての冬を迎えた。
今月末にある大切な日の存在を、彼女はまだ知らない。



15 初耳バースデー



年末ということで、心なしか地下街も浮足立っているようだった。
nameはいつも買い出しをする通りを歩きながら心踊らせていた。
最近は来るたびに店の品揃えが少し変わっているのだ。
良い品物が並んでいることが多くなった。
こうした小さな発見は彼女にとっては楽しいもので、あまり変化のない日々の刺激になる。
ファーランは慣れた仕草で荷物を肩に掛けた。

「なんか良いものが多く並ぶようになったね。ほら、このお肉とか美味しそう」
「ああ、もう年末だしな」
「そういえば、ここはクリスマスとかお祝いするの?」
「くりす?なんだそりゃ?」

ファーランは首をかしげた。
nameはそういえば、と思い出した。
こちらの目立った信仰はウォール教だと前に教えてもらったことがあった。
100年も平和が続くこの世界では神を求める者自体あまり多くないらしい。
キリスト教がこちらになければ必然的にクリスマスもない。

「私の世界だと、12月の24と25日はクリスマスっていうお祝いをするんだ。ケーキを食べたりプレゼントを交換したりするの」
「へえ、楽しそうだな。ん?そういや25日って…」
「何かあるの?」
「…ああ、とびきり大事な日だな」
「え、なになに?」

ファーランが"とびきり大事"と意味深に言うのでnameは気になった。
彼は意地悪く笑うと、彼女に耳打ちした。

「リヴァイの誕生日だ」

nameはしばらく固まったあと、みるみる目を大きく見開いた。

「…う、ええ!!?」
「ふは!お前その顔っ」

ファーランは思わず吹き出してしまった。
nameの表情の変わりようは実に滑稽で、発せられた声は素っ頓狂だった。
彼女は驚いたと思ったら今度は顔を青くして頭を抱えだした。

「し、知らなかった!どうしよう!」
「…くっ、ははっ!」
「ファーラン笑いすぎだから!」

ころころと百面相する彼女がファーランはおかしくて堪らないらしい。
nameが抗議の声を上げても笑いを止められなかった。

(誕生日なんて全然聞いたこともなかった…!)

nameはぐるぐると色んなことを考え始めた。
まず浮かんだのがプレゼントの問題だった。
何をあげたらいいかわからない。
リヴァイの好きなものといえば紅茶だが、以前一緒に買いに行ったこともあるので何だか面白みに欠けてしまう気がする。

次に浮かんだのが金銭の問題。
nameが自力でプレゼントを用意するのにはどうしても無理があった。
彼女は使用人として働いているが2人と金銭の授受はない。
働くことで無賃で間借りしているのだから当然といえば当然だ。

こんな悩みに直面するなどと、彼らと初めて会った日には到底想像もできなかった。

「おい、大丈夫か?」

頭を抱えたまま俯いているnameをファーランが覗き込んだ。
どうやら笑いは落ち着いたらしい。

「一体何に悩んでるんだよ?」
「プレゼント…」
「え?」
「プレゼント買えない…」
「…ああ、そういうことか。金貸そうか?」

nameはバッと顔を上げた。
困った眉を更に下げて今にも縋りつきたそうな目をしている。
しかし、その表情に反して彼女は大きく首を振った。

「だめ、そんなのいつ返せるかわからないし、借りたお金じゃ意味がないから」
「…………」

ファーランは内心、真面目だなと思ったが、それも彼女らしいといえば彼女らしかった。
好きな相手への贈り物なら特にこだわるだろう。
自分も心底惚れた相手にならその意地は通すかもしれない。

nameは難しい顔をしながら歩きだした。
リヴァイの誕生日まではあと2週間と少し。
準備をするなら急がなければならない。

ふと、青果店の店頭に並んだ赤が彼女の視界に入った。
とても綺麗な色をしていた。
それを眺めながらnameは考え込む。
そして、急いでファーランを呼んだ。

「ファーラン、お願いがあるの」
「なんだ、どうした?」
「あのね」

誰が聞いているわけでもないのに、nameは静かな声で耳打ちした。
彼女の提案を聞いたファーランは感心したように目を丸くしたあと、笑って頷いた。




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