nameが彼らと暮らし始めて1ヶ月が経とうとしていた。
ファーランが言っていた通りリヴァイの潔癖さにはすぐに慣れた。
今ではこの家での掃除はお手の物で、小姑のようにダメ出しをされることもなくなった。
そして、2人との距離も縮まりつつある。
10 距離感
nameはシャツの皺を伸ばすように広げるとロープにかけた。
これが最後の一枚だった。
地下の生活の良い点は天候に左右されないということだ。
ここなら365日、家の外で洗濯物を干せる(厳密には外とは言わないだろうが)。
しかし、太陽がない分乾きも遅い。
陽の暖かさは人の心にも、そして洗濯物にも必要不可欠だと彼女は思った。
後ろから階段を上がってくる足音がしたので振り返る。
今日も銀髪が綺麗にきまっている彼は、一度昼食を食べに戻ってきたようだ。
「ファーラン、おかえりなさい」
「おう、ただいま。今日も家事ご苦労さん」
「ううん、これが私の仕事だから」
ファーランの労りにnameは首を振った。
外で働いて帰ってくる2人に比べれば自分の労働など大したことはない。
「ここでの暮らしには随分慣れたみたいだな」
「うん、お陰さまで」
「敬語が抜けて話しやすくなったぜ」
「ファーランとは一緒に買い物に行くことも多いから慣れてきたよ。いつもついてきてくれてありがとうね」
「まあな、俺は女には優しいことで有名だ」
「はいはい」
nameが外を歩く時はリヴァイかファーランのどちらかが必ず同行することになっている。
その役はファーランが受けることが多く、食料の買い足しには基本的に彼とnameの2人で行くようになった。
話す機会も増えたことで彼らは互いにかなり打ち解けてきていた。
「リヴァイさんといる時はまだ緊張しちゃうけど」
「はは、だろうな。見ててわかる」
この家の主リヴァイは意外によく喋る男で、nameは何かと話を振られることが多かった。
その都度、緊張のせいで彼女は上手く話せないでいた。
「nameはリヴァイのこと苦手か?」
「うーん……最初は苦手、だったかな」
「そっか。まあ確かに極悪人顔だしな」
「ファーランって意外と酷いこと言うよね」
nameはおかしそうに笑った。
つられてファーランも歯を見せた。
「でもさ、リヴァイはああ見えて仲間思いなやつなんだ。お前のことも、もう仲間として認めてると思うぜ」
「えっ…私、使用人なのに?」
「ああ。でなきゃ買い出しにわざわざ俺を付き合わせたりしねぇよ。それだけ危険にあわせたくないってことだ」
nameはこの1ヶ月で知ったリヴァイの顔を思い浮かべた。
彼はさり気なく相手を助ける術を知っている人だ。
彼女が困ったとき、迷ったとき、いつも自然な流れで助けてくれる。
粗暴で威圧的な雰囲気とは裏腹に優しいところもある。
そんな内面が垣間見えるからこそちゃんと話せるようになりたいとnameは思った。
「…苦手だったけど今は違うよ。リヴァイさんとも色んな話ができるようになりたいって思ってる」
「段々と話せるようになるさ。それで、信頼するようになる」
ファーランは自信ありげに言った。
リヴァイが仲間思いで信頼における人間だということは、ファーラン自身が何よりの証拠だった。
「うん、そうなるといいな。いつか信頼し合って、こうしてファーランと話すみたいな関係になりたい」
「なれるさ。けどname、それって俺のこと信頼してくれてるってことか?」
「もちろん、ファーランのこと信頼してるよ」
疑いのない真っ直ぐな瞳で見上げられて、ファーランはどきっとした。
「そ、そうか。じゃあリヴァイに言いずらいことがあったら俺に言えよ!力になってやるから」
「ふふ、ありがとう。お言葉に甘えさせてもらいます」
ファーランはnameの頭をくしゃりと撫でた。
まさか年下の彼女にどきりとさせられるとは思わなかった。
微かに足音が近づいてくることにファーランは気がついた。
nameの後ろにある階段を上ってくる影が見えた。
彼は彼女の頭からぱっと手を離すと、そのまま上にあげた。
「よっ」
nameは後ろを振り返った。
きっとあの可愛らしい顔で笑いかけてるんだろうとファーランは思った。
我らがボスのお帰りだ。
「リヴァイさん、おかえりなさい」