×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -




地下街は複雑怪奇で迷いやすい。
似たような道ばかりで、もうどこを曲がったのか覚えていない。
路地の暗がりの中には人が潜んでいるのが見える。
そこにいる奴らとは決して目を合わせてはいけないと、リヴァイはnameに忠告した。
初めて自分の足で歩く地下街はnameの想像を超えていた。

(これが、地下街なんだ…)

リヴァイを先頭にname、ファーランが続いて歩く。
nameがいるため、2人はいつも以上に神経を張り巡らせていた。



09 橙色に揺れて



「着いたぞ」

リヴァイに言われ、nameは辺りを見回した。
到着した通りには女性ものを取り扱っている店が建ち並んでいた。
小綺麗な店をリヴァイは決して選ばない。
地下商人や人身売人の手が回っている可能性があるからだ。
彼は一通り見て回ると、小さな店に入った。

「ここなら大抵のもんは揃ってる。適当に選んで決めろ」

リヴァイは入口付近に立つと、ファーランをnameに付き添わせ、自分はそれ以上店内へは進まなかった。

「リヴァイさんはどうして入らないんですか?」
「ああして店主を見張ってるんだ。こういう女向けの店は娼館と裏で繋がってることもあるからな。間違っても売られたくないだろ?」

そんな危険性まであるのかとnameは驚いた。
地下街では女性が買い物をするだけでも命がけだ。
老婆の店主はカウンターで座ったまま動かない。
リヴァイに睨まれていても気にならないようだ。

「さ、早く選ぼうぜ。他にも寄るところはあるしな」
「わかりました」

店内を軽く物色していていると、色々と気づくところがあった。
やはりこの世界ではロングスカートが基本的な女性の装いのようで、沢山の数が並んでいた。
トップスはブラウスやカットソーが主流でナチュラルカラーが多い。
唯一カラーバリエーションを楽しめるのはカーディガンくらいだった。

「あの、お金の上限とかはありますか?」
「金のことは気にしなくていい。必要なものは必要なだけ買うんだ。服の買い物なんか滅多に来ないからな」
「そうは言っても…」
「ここで遠慮してあとで足りないものが出たときの方がリヴァイはうるさいぞ」
「うーん……わかりました」

nameはスカートを4枚、ブラウスとカットソーを2枚ずつ、それとカーディガンの黒と水色を選んだ。
そして、ファーランに少し待ってもらうよう頼むと下着コーナーを急いで物色した。
色は白が殆どだった。
下着とブラジャーをそれぞれ4セット選ぶと、他の服の下に隠してファーランの元へ戻った。

会計を終え、品物を大きな布で包みながら店主がnameに尋ねた。

「お嬢ちゃん、ここには来たばかりなのかい?」
「えっ」
「悪いな婆さん。急いでるんだ、早く包んでもらえるか」

すかさずファーランが間に入った。
店主は頭を振ってnameを見た。

「隠さなくていい、見ればわかるよ。何かと物入りだろう。そこに並んでる靴、どれでも好きなのを持っていきな」

店主が指した先には靴が5足並んでいた。
nameどうしていいかわからずにいると、売れ残ったものだから遠慮しなくていいと店主は言った。
迷った末nameは試しにいくつか履いて、一番歩きやすそうなものを貰うことにした。

「あの…ありがとうございます」
「ああ、頑張りなよ」

最後の靴も一緒に包むと店主は力なく微笑んだ。
ちらりと見えた歯は所々欠けているようだった。

「感謝する」

リヴァイはそう店主に伝えると、3人は店を後にした。

「沢山買っていただいてありがとうございます」
「上手く着まわせよ」
「お金も、いつか返します」
「…それは働きぶりで返すんだな」

はい、とnameは頷いた。
彼らには本当に良くしてもらってばかりで頭が上がらない。

「さて、次は何を買うんだ?」

ファーランは包みの布を背負って尋ねた。
荷物は自分で持つとnameは言ったが、彼はやんわりと断った。

「name、あとは何が必要だ」
「食器と食料を見たいです」
「食器だと?」
「はい、料理していて食器が足りないように感じたので」
「…いいだろう。こっちだ」

リヴァイを先頭に3人は再び進んだ。
点々と店を練り歩いていくうちに、荷物は少しずつ増えていく。
ファーランが持てる荷物にも限界があったので、細々したものはnameが持ち、重たい食器やミルク缶はリヴァイが持って歩いた。

「今日はこんなところだろう。帰るぞ」

リヴァイの言葉にnameとファーランは賛同した。
ただの買い物とはいえ、あちこち歩き回って流石に疲労を感じていた。
特にnameは初めての地下街を歩いたことでかなりくたびれていた。

帰る途中で一際明るい目立つ通りを見かけた。
露店や屋台等が並び、酒を煽る男達が集まっている。
どうやら繁華街のようだ。
nameは思わず立ち止まった。

「どうしたname?繁華街が気になるのか?」
「いえ…光っていて綺麗だなと思って」
「ああ、火を沢山使っているからな」
「実際はクソの集まりみたいなところだ」

ついてこなくなった2人に気づいたリヴァイが踵を返して戻ってきた。
3人で遠くの繁華街を眺める。
陽の光には到底及ばないが、ゆらゆらと揺れる繁華街の光は眩しい。

「あそこの屋台って美味しいんですか?」
「いや、ぜーんぜん。nameの作ってくれる飯の方が何倍も美味いよ」
「ああ…全くだ」

ファーランの言葉を支持するようにリヴァイは呟いた。
驚いたnameは思わず彼を見つめた。

「今朝のパンに塗ったあれは美味いな。紅茶とよく合う」
「あ…バターですね」
「あれは簡単に作れるのか?」
「え?」
「素直じゃないなリヴァイ。また食べたいって言えばいいだろ?」
「……」
「うお!?」

リヴァイはしばらく沈黙したあと、食器の入った箱をファーランの抱える荷物の上に重ねた。
無表情を崩してはいないが、nameはリヴァイが少しだけ、恥ずかしそうにしている気がした。

(わ…)

nameは頬が綻ぶのを隠せなかった。
きっと、彼はバターをとても気に入ったのだ。
だからわざわざ作る手間なんて聞いたのだろう。
ファーランの言う通り、一言また食べたいと言ってくれたらいつでも作るのに。
けれど、そんな遠回しなリクエストがなんだか可愛く、とても嬉しかった。

「おい、何笑ってやがる」
「いいえっ…リヴァイさんが気に入ってくれたならまた作りますね!」

nameは嬉しそうに笑った。
彼女の笑顔をリヴァイは黙って見下ろす。
繁華街の光を受けた彼女の頬は橙色に照らされていた。
ゆらゆらと瞳が揺れて見えた。

目を細めたリヴァイは彼女からゆっくり視線を外し、一言ああ、と言って歩き出した。

まただ、とリヴァイは内心で呟いた。
柄にもなく心臓が早く動いた。
表情の変化を悟られないように平常心を保つ。
繁華街の鈍い光なんかより、彼女の瞳に宿る光の方がずっと綺麗で優しいと彼は思った。




back