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nameが初めて自室で眠ろうとした夜、リヴァイが部屋を訪ねてきた。
彼は部屋に入ることなく、扉のノブを螺子回しで器用に外した。
そして、持ってきていた別のノブを丁寧に付けた。

不思議に思って彼の後ろから覗き込むと、nameははっとした。
鍵付きのノブに変わっていたのだ。

「てめえの身はてめえで守れ」

リヴァイはそれだけ言うと部屋を出て行った。
慌ててお礼を言ったが返事はない。
彼がこんな気遣いをしてくれたことが意外だった。

男と暮らすリスクを心配していたnameにとってそれは有難いものだった。
安堵感が胸に広がる。
リヴァイさん。
彼は見た目よりもずっと優しい人なのかもしれないと、彼女は思った。



08 狼たちの気遣い



この世界に来て3日目の朝を迎えた。
nameは伸びをしてベッドを整えるとすぐに下に降りた。
2人はまだ起きていないようだ。

水場で顔を洗って窓を開ける。
当然だが、清々しい朝の日差しなど入ってこない。
昼夜問わず常灯のこの街は、意識していないと体内時計が狂ってしまいそうだった。

時刻は6時過ぎ。
2人の起床時間まであと30分ほど。
nameは急いで朝食の準備に取り掛かった。

食料庫にあった芋を鍋に入れ、少量の水を加えて火にかけた。
その間に食料庫から布で巻いておいたコップを取り出す。
布を取るとコップの中には白色の塊があった。
昨日の夜、残った牛乳をシェイクして作り、塩と混ぜて一晩寝かせたものだ。
スプーンで少しすくって味見をする。

(ん、いけるかも!)

嬉しくなり思わずガッツポーズをした。
パンをスライスして3人分の皿にそれぞれ乗せる。
リヴァイとファーランには1枚ずつ多くした。
そして、コップから白い塊を出すと皿の端っこに少しずつ添えた。

鍋の中の水分は蒸発し、芋はいい感じに蒸しあがっていた。
手頃な皿がなかったので鍋に入れたままスプーンでマッシュする。
あとは冷めるのを待って盛り付ければ完成だ。

テーブルメイクをしようとnameがくるっと振り返れば、すぐ後ろにリヴァイが立っていた。

「わっ!!!」
「チッ、朝からうるせぇよ」
「おはっ、おはようございます…!」
「…ああ」

リヴァイは袖を捲ると水場で顔を洗い始めた。

nameは目を丸くしたまま固まっている。
一体いつから見られていたのだろう?
さっきの一人でやっていたガッツポーズも見られていたのだろうか?
だとしたら恥ずかしすぎる。

(後ろにいたのに全然気配しないんだもの!)

nameは気恥ずかしさを誤魔化すようにやや乱暴にケトルポットを掴むと、水を注いで火にかけた。
すると、ちょうど扉の閉まる音がした。
ファーランが眠そうな顔で立っている。

「おはよう。2人とも早ぇな」

ファーランも顔を洗うため袖を捲る。
寝癖でくしゃくしゃになった髪を見てnameは小さく笑った。

「おはようございます。もうご飯できてますよ」
「おう、流石だな」

3人で椅子に腰がけると、ファーランとリヴァイは首を傾げた。
パンの皿に添えられた塊を凝視している。
それが何なのかわからないようだ。
nameはスプーンの裏でそれをすくうと、パンに塗ってみせた。

「これはバターです。パンに塗ると美味しいですよ」

nameのやったことを2人とも真似る。
バターを塗ったパンをかじると、絶妙なしょっぱさが舌先を刺激した。
2人が同じことを同時に思った。
これは美味い、と。
また、マッシュポテトという芋を蒸して潰したものも柔らかく美味だった。

昨日のシチューに引き続き、2人は食事の手が止まらず、あっという間に平らげてしまった。

「朝から飯が美味く感じたのなんて初めてだ」
「そんな、大袈裟ですよ」
「いや、本当。name、お前が作るものは何でも美味いな」

ファーランの褒め言葉にnameはくすぐったそうに笑った。
何年も料理をしてきたが、こんなに褒めてもらえることはそうなかった。

リヴァイは残りの紅茶を飲み干すと、カップをソーサーに置いた。

「name、今日はお前も外に出る。片付けが済んだら準備しろ」
「え…どこに行くんですか?」
「nameも女だったら色々と物入りだろ?今日は買い物に連れて行ってやるよ」
「でも、仕事があるんじゃ」
「お前はその短い丈でこの先ずっとやっていくつもりか?ここで生きていくなら服装は考えた方がいい」
「そういうこと。俺達も男だからさ」
「……あっ」

2人の言葉の意味を理解すると、nameはスカートの裾を引っ張った。
短いといっても、これは膝より少し上の丈だった。
元の世界の感覚ではこれを短いという人はあまりいないかもしれないが、この世界では充分短いらしい。
だとすると昨日までの間、2人はとても気を使ってくれていたのかもしれなかった。
鍵の設置も、もしかしたらそのせいで急いでやってくれたのではとnameは思った。

「お、お気遣いありがとうございます」

食べ終わっている2人をこれ以上待たせまいと、nameは急いでパンを頬張った。



***



「おい、name」
「はい?わっ!」

皿を棚にしまい終えたnameをリヴァイが呼んだ。
勢い良く振り返るのと同時に、彼女目がけて大きな布が飛んだ。
nameは反射的にそれをキャッチした。

「外を歩く時はそれを着ろ」

大きな布はくすんだベージュ色のマントだった。
フードが付いているため顔を隠すこともできる。
随分と使い込まれたような布は外で身を隠すには丁度よいボロさだった。
試しに着てみると、長い裾がnameの脚まで綺麗に隠してくれた。

「ありがとうございます…リヴァイ、さん」

リヴァイの名前を呼ぶ時、nameはいつも遠慮がちになってしまう。
まだ緊張感が抜けないのだ。
その様子を見たファーランは面白そうに笑った。

「ふん…いくぞ」

リヴァイはnameのフードを掴むと、目元まで引き下げて彼女の顔が見えないようにした。
扉の向こうはいつも通りの世界。
nameにとっては未知の世界への探検の始まりだった。




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