×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -




「着きましたよ」

ロレは扉を開けて先に馬車を降りる。
差し出された手を支えに馬車から顔を出すと、陽の光の眩しさにnameは目を細めた。



24 無垢な白が空を翔ける



爽やかな初夏の風が水面を撫で、キラキラと揺れる。
nameにとって思い出深いその湖は、今日も穏やかな顔で彼女を迎えてくれた。

「えっと…」

どうすべきか分からない彼女は戸惑いの声を漏らす。
それもそのはず。
普段は静かなこの場所に、今日は沢山の人が集まっていた。
しかも、彼らは待ってましたとばかりに、到着したnameへと一斉に視線を向けた。

「nameー!綺麗だよー!」

聞き覚えのある声にnameは視線を泳がせる。

「え、ハンジさん!?」

見つけるのに時間がかかったのは服のせいだ。
ハンジは珍しい正装姿で、けれど、いつも通りの笑顔で手を振っていた。
よく見れば、エルヴィンやリヴァイ班のメンバーも揃っている。
正装をしているから気付かなかったが、ここに集まっているのは全員兵団の関係者のようだった。
彼らはにこやかに、何かを待つようにnameを見つめている。

熱が顔に集中するのを感じる。
こんなに沢山の人の前で、こんな綺麗な格好をして、緊張しないわけがない。
思わず後退りしそうになる。
すると、2つの手に、そっと背中を押されたような気がした。

「え…?」

思わず後ろを振り返る。
けれど、そこには誰もいない。
代わりに目に入ったのは、こちらへ向かって飛んでくる真っ白な二羽の鳥。
彼らはnameの横左右を通り過ぎると、人々の群れを越えて、一本の木の枝へと舞い降りた。
それを見ていた観衆は揃って動き出し、nameの前に道ができる。
すると、木の根元にいる人物が目に入った。

「リヴァイ」

黒のタキシードを身に纏った彼が、そこで待っていた。

nameはドレスの裾を持ち上げると、ゆっくり歩き出した。
目の前を通り過ぎていく彼女に、人々が「おめでとう」と声をかける。
nameは粛々と僅かに頭を下げながら、祝辞の言葉に頬を染めた。

今朝の慌ただしいリヴァイの様子を思い出す。
無表情の下で、彼は彼なりに緊張していたのかもしれない。
今日の準備だって何日も前からしてくれていたのだろう。
意外とロマンチストな一面を持つ彼を見上げながらnameは微笑む。

「まだ早ぇだろ」

リヴァイは彼女の目尻に光る雫を指先で掬った。

「こんな素敵なドレスや沢山の人…いつの間に?」
「お前が戻ってきてすぐ、式のための休暇を貰えるようエルヴィンに頼んでおいた。…こんなに人を集めろとは一言も言ってねえが」

彼はどうやら、ひっそりと式を挙げるつもりだったらしい。
招待状など誰にも出していないのにこれだけ人が集まったのは、エルヴィンの尽力によるものだ。
兵団のために最前線で戦ってきた英雄とその恋人の晴れの日を、盛大に祝ってやりたかったのだろう。

「お節介な奴め」
「でも、感謝しなくちゃ」
「フン……」
「お二人とも、よろしいですか?」

花束を持ったロレが2人に近付く。
白と淡紅色の薔薇が可愛らしく、色合いがnameに似合うと、リヴァイが選んだものだ。
ロレから花束を受け取ったリヴァイを見て、nameは小さく笑った。

「似合わねえと思っただろ」
「ごめんなさい、少し」
「ちっ…まあ、許してやるよ。今日だけは」

彼は言葉とは裏腹に穏やかな表情で、口元を緩めた。
暖かな日差しを受けたリヴァイの笑った顔があまりに美しく、nameは思わず見惚れる。

「綺麗…」
「それはお前だ」
「ううん…ドレスに負けちゃうよ」
「name、お前は何よりも綺麗だ。何よりも愛しい」
「…!」

nameは赤い顔で目を丸くする。
こんなに大勢の人の前で、そんな甘い言葉を言われるとは思わなかった。

「name」

リヴァイは花束を捧げるようにnameへと向ける。

「俺の妻に…家族になると、誓ってくれるか」

深い灰の双眸が、真剣な眼差しで見つめる。
何度もその眼に問われ、頷き、今日まで彼を信じてきた。
胸が熱く、込み上げるものを抑えるのに必死で言葉に詰まってしまう。
nameが口元を押さえると、薬指の指輪が繊細に光った。

溢れそうになる涙を零すまいと、彼女は上を向く。
すると、枝に佇む二羽の鳥と目が合った気がした。


───いつか、リヴァイと本当の家族になれよ。

そう言ってくれた、ファーランの懐かしい声が木霊する。

「……っ」


初めて願った時。
こんな未来を想像できなかった。
何を犠牲にしてもいいと思える程、自分が誰かを愛せることを知らなかった。
色んなことを思い、失ったものもあるけれど。
今日、私は大好きな人の家族になる。

「リヴァイ、最後にこれだけお願いさせてくれる?」

微笑むnameの瞳が涙できらきらと光る。
この無垢な漆黒の瞳にずっと焦がれてきたと、リヴァイは改めて思った
彼は静かに、「なんだ」と問う。
nameは小さく歯を見せて笑うと、よく通る澄んだ声で答えた。


「ずっとあなたの傍にいたい。永遠に、誓います」


nameが花束を受け取ると、そのまま腕を引っ張られた。
最愛の妻を抱き寄せる英雄の姿に、人々は思わずどよめく。

唇が触れる寸前。
リヴァイはnameにだけ聞こえる声で囁いた。


「愛している」


人々の祝福する声が青い空へと響く。
今日だけは、この幸せな時間を思い切り楽しもうじゃないか。
そんな台詞がどこからか聞こえてきた。


二羽の鳥が歌うように高く鳴く。
美しく飛び立ち、2人の傍へ滑空すると、すぐに羽ばたいて上昇した。
真っ白な羽は自由に空を翔ける。
nameが空を仰いた時、無垢な二つの白は澄み渡る青に溶けて見えなくなっていた。


chapter 05 All END



back