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「記憶喪失、だなんて。信じてもらえたのかな」

古城へ戻る馬車に乗るや否やnameが呟いた。
向かいに座るリヴァイは脚を組み、窓の外へと視線を投げている。

「信じようが信じまいが、それで通すしかねえと言ったはずだ」

再会したエルヴィンはまず、「頭の方は大丈夫か?」とnameに尋ねた。
質問の意味はわからなかったが、とりあえず頭は大丈夫そうなので、曖昧に頷く。
しかし、次に「体はもう大丈夫か?」と聞かれた時は流石に首を傾げてしまった。


記憶喪失と重篤な病を患っていた。
nameのことを、リヴァイはそう説明したらしい。
長い間見つけ出せなかったのはそのせいだと。
その話をエルヴィンが鵜呑みにしたとは思えないが、詮索不要と判断したのか、nameに対しても深くは言及してこなかった。


「エルヴィンはあれで納得した。ハンジにも同様に説明する」
「…ハンジさんは納得しないと思うけど」
「だろうな。それでも、真実を話すわけにはいかねえだろ」

初めは納得しなくとも、疑問は次第に薄れていく。
嘘も真実となる。
そうやって日常を得ていくしかないというのが、リヴァイの考えだった。

あのハンジに熱く迫られたら、つい本当のことを話してしまいそうだ。
彼女だってとても心配していてくれたのだから。
けれど、リヴァイの言う通り、本当のことは誰も知らない方がいいのかもしれない。

知れたらきっと、何かが変わってしまうかもしれないから。

「お前の身を旧本部に置く許可が降りた。明日から1ヶ月半、頑張るんだな」
「今日から頑張るよ。調査兵団の現状を知った今、ぼんやりとなんてしてられないもの」

リヴァイ班の食生活管理という名目で、彼女は旧調査兵団本部に身を置けることとなった。
それに伴い、調査兵団の現状と今後の展望、あのエレン・イェーガーについてもエルヴィンから説明があった。
1ヶ月半後に迫る壁外調査の重みに、恐怖さえ覚える。
けれど、今はとにかく自分に与えられた仕事を全うするしかない。

「わざわざ一緒に来たのは、このためだったんだね」

リヴァイが強引なまでに同伴しようとした理由が分かり、nameは納得したように頷く。
その様子を横目に見ながら、彼は小さく呟いた。

「それだけじゃ、ねえがな」

昼下がりの情事を思い出す。
次にあんな熱い時間を過ごせるのは一体いつになることか。
今日は無理にでも同伴してよかったと、リヴァイは内心でこっそりと思った。



23 純白に包まれて



この世界に戻ってから2週間が過ぎた。
炊事、洗濯、掃除。
nameの毎日の生活はそれがルーティンとなった。
まるで地下の生活に戻ったようだと思う。
洗濯を乾かす太陽はちゃんとあるけれど。


壁外調査も約1ヶ月後に迫った今日、突然の訪問者にnameは目を丸くした。

「ロレくん?どうしたの急に?」
「今日は休暇で。よかったら買い物に付き合ってもらえませんか?」

また色々話したいですし、と彼は付け加えた。

「ごめんね、私今日は休みじゃなくて」

nameは眉を下げて断りを入れる。
わざわざここまで来てもらったのに申し訳ない。
すると、タイミング良く通りがかったリヴァイにロレは声をかけた。

「兵長、nameさんをお借りできませんか?」

珍しく私服姿で城内を歩いていたリヴァイは、何やら忙しない様子で2人を見やる。
そして、迷うことなく即答した。

「気を付けて行ってこい」
「……えっ!?」

当然、断るものと思っていたnameは驚きの声を上げる。
今ならば、壁外調査前の大事な時期に呑気なことを抜かすなと言いそうなものなのに。
第一、自分が街へ行くこと自体、彼は嫌がるはずだ。
しかし、nameが覚えた違和感はそれだけではない。

「リヴァイ、今日は何かあるの?」
「あ?何故そんなことを聞く」
「何だかいつもと違うみたいだから」
「…………」

兵団本部にしろ古城にしろ、彼は休みでもない日に私服で歩いたりはしない。
しかも、普段ならこの時間は訓練に出ているか、事務処理に当たっているはず。
今の彼はそれらとは別の何かに追われて忙しいようだ。

「何でもねえ。あまり待たせるな」



***



「次はあの店、いいですか?」

nameは生返事をしながらロレについて行く。
久しぶりに街へ来てみたものの、正直あまり楽しめていない。
先のリヴァイの様子が気がかりだった。

「え…あれ、ロレくん?」

店に入ってすぐ、ロレの姿が見えなくなったことに気付いてnameははっとする。
間違いなくこの店に先に入っていったはずなのに。
急いで店内を見渡せば、女性用の服ばかりが並んでいる。

(どうしてこのお店に…?)

今日は彼の買い物で、自分は特に欲しいものはないというのに。
疑問に思いながら店内を歩くと、店員と思われる女性に声をかけられた。

「name・fam_name様ですね?本日はお待ちしておりました」
「えっ?」
「どうぞ、こちらに」

別室へと続く扉が開けられ、中へと促される。
nameは慌てて首を振った。

「待ってください。私、予約とかはしてないはずなんですが…何かの間違いではないですか?」
「いいえ、リヴァイ様より承っております」
「え…リヴァイが?」
「スケジュールの都合上どうしても今日しか合わせられず、近場で行いたいということで。私共も中央から出張で参りました」

素敵な旦那様ですね。
女性はそう言って微笑みながら、nameを部屋に通す。
様々な疑問が頭の中で回っていた彼女は、部屋に入るとまず目を見張った。
驚きで声を失う。

「きっとお似合いですよ」

美しい純白のドレスの横で、女性はもう一度微笑んだ。



***



「普段は出張は承っていないのですが、今回はリヴァイ兵士長からの御依頼ということで特別に」

ヘアメイクを受けながら、nameはその話に耳を傾けた。
店員と思われた彼女は、普段は王都の近くの挙式場で働いているらしい。
この店と交渉して控え室を作ってくれたのもリヴァイだと教えてくれた。

顔にも化粧を施し、最後に口紅を塗ると、彼女は丁寧にお辞儀をした。

「濃いのはお好きではないとのことでしたので、このくらいで」

鏡に映る自分をnameは見つめた。
黒髪は綺麗に束ねられ、短めのベールと白の花で装飾されている。
頬は淡い色付きで、リヴァイをガッカリさせないナチュラルなメイクだ。
そして、いつの間にこちらへ運ばせたのか、ムーンストーンのネックレスが首元で光っている。
リヴァイが選んだというウェディングドレスは、花の刺繍が繊細なエンパイアラインのものだった。

まるで自分ではないようで、nameは何度も瞬きをする。
不意に扉がノックされ、外から声が聞こえた。

「馬車を待たせてあります」



控え室から出てきたnameの姿を見たロレは、素直に「綺麗です」と口にした。
彼もいつの間にか正装に身を包んでいる。

「最初に見るのが自分で、兵長に申し訳ないですね」
「ロレくんも、リヴァイに頼まれてたの?」

nameの質問にロレは静かに笑う。
彼女をエスコートしながら、馬車へと案内した。

「さあ行きましょう。リヴァイ兵長がお待ちです」



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