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互いの5年間がどうあったか。
それを語り尽くすには、一晩はあまりにも短い。


蝋燭の灯りだけがはっきりと見える室内で、彼らは窓辺に椅子を寄せ合って手を繋いだ。
nameの話にリヴァイは耳を傾ける。
少し大人びた彼女は、心做しか昔よりしっかりとした口調になった気がする。

「3年しか年をとっていないんだな、お前は」
「うん…今でも変な感じ。リヴァイとまた2つも歳が離れちゃった」

本来より2歳若いお陰でnameはまだ20代前半。
それに対し、しっかりと5年の歳月を刻んだリヴァイは30歳を過ぎていた。
更に開いた年齢差が妙に寂しい。

「年の差なんざ大して気にすることじゃねえ」
「うん…」
「…続きを話せよ」

促されたnameは話の続きを紡ぐ。
丁寧に紐解くように、ゆっくりと。

リヴァイは目を瞑り、静かに彼女の話に聞き入った。
握った手と寄り添った体から、nameの体温を確かに感じる。
幸福な温もりだ。
昨日まででは考えられない程に、心の内側が穏やかになっている。


「……name?」


不意に声が聞こえなくなったことに気づく。
顔を見やれば、彼女の目は閉じられ、規則的な呼吸で肩が上下していた。

「…ゆっくり休め」

穏やかな表情をして眠りについた彼女を抱き上げると、静かにベッドに横たえる。
リヴァイもベッドに入ると、nameにそっとキスを送った。

───今日は疲れただろう。
長い喪失感から解放されて、俺も体の力が抜けちまいそうだ。

nameを腕の中に閉じ込めて、重たい瞼を閉じる。
恋人を抱きしめて眠る懐かしい感触。
彼は約5年ぶりに、深く、優しい眠りに落ちることが出来た。



18 実感



懐かしい重みで目が覚めた。
息苦しさに、nameは少し身じろぐ。

「…!」

目を開けると端正な顔がすぐそばにあってどきりとした。
窓の外から鳥のさえずりが聞こえる。
暗かった室内は朝日で明るく、真っ白なシーツが鮮明だ。

「あれ…」

いつベッドに入ったのだろう?
昨晩は窓辺に椅子を寄せ合って、互いの5年間を語らっていたはずなのに。
リヴァイの腕に包まれている今の体勢に首を傾げる。

寝息がかかるほどの距離にリヴァイの顔がある。
こんな風に寝顔を見るのも、腕の重みを感じて起きるのも久しぶりのことだ。

(夢じゃない)

確かに伝わってくる体温がそう教えてくれる。
嬉しくなって顔を近づけると、不意に彼の瞼が持ち上げられた。

「リヴァイ、おはよう」
「…………」

深い灰の眼にnameの笑んだ表情が映る。
リヴァイは少しだけ眼を見開いて何度か瞬きをすると、彼女を強く抱きしめた。
ただでさえ少なかった2人の隙間がゼロになる。
聞こえる心音にリヴァイは深く息を吐いた。

「…夢じゃねえな」

安堵の色を帯びた低い声。
nameは思わず抱きしめ返す。

「私もおんなじこと思ったよ」




その日の朝、nameは朝食を作った。
差し出がましい真似かと思ったが、兵士でない自分がここでタダ飯にありつくのは気が引けたのだ。

「美味い!nameさん、料理お上手なんですね!」

有り合わせの野菜スープを一口飲んだエレンが感嘆の声を上げた。
真っ直ぐな褒め言葉にnameは頬を綻ばせる。

「口にあったみたいでよかった」
「本当だ!食堂のご飯しか食べたことないから知らなかったけど、nameの料理ってこんなに美味しかったんだね。地下にいた頃は毎日これを食べられていたわけだ、リヴァイは」

スプーンをくるくると回しながらハンジはわざとらしく笑ってみせる。
久しぶりに食べるnameの料理に誰よりも感激していたリヴァイは、煩わしそうにハンジを睨んだ。

「うるせぇぞクソメガネ。お前、いつまでここにいるつもりだ」
「朝食を済ませたら本部に戻るよ。エルヴィンもそろそろ帰ってくる頃だし。nameも一緒に行くかい?」

昨晩、nameの5年間の秘密を聞きそびれたハンジは、彼女と話す機会が欲しいようだった。

「この古城にいるにしてもまずはエルヴィンの許可がいるし、それが下りたら着替えなんかも必要になるでしょ?」
「ああ…確かにそうですね。エルヴィンさんにもちゃんと挨拶しなきゃいけないですし」
「なら、俺が同伴する」
「リヴァイはこれ以上エレンの監視から外れると良くないんじゃない?君の存在ありきで彼を調査兵団に引き取ることができたんだから」
「…………」

今のハンジの言葉には説得力があり、リヴァイは一瞬押し黙る。
数秒思考を巡らせた彼は、なら、と再び口を開いた。

「お前が代わり残れよハンジ。そもそも、ここに来たのはエレンを弄くり回したかったからだろ?」
「それはそうだけど…」
「本部に許可をもらいに行く間、エレンを預けてやるよ。実験はさせられねえが、質問でもなんでもすりゃいい」

"実験"の言葉にエレンの顔が引き攣った。
ハンジは少し不服そうだったが、エレンと目が合うと眼鏡をきらりと光らせた。

「まあいいか。そういうことだから、今日はよろしくねエレン」
「はは…は」

マッドサイエンスに笑うハンジと青ざめた顔のエレンを横目に、リヴァイは食事を再開した。
流れを隣で静かに見ていたnameは、小声でリヴァイに問いかける。

「本当にいいの?私、本部に行くだけならハンジさんとでも大丈夫だよ?」
「…………」
「リヴァイ?」
「…食事を終えたらすぐに出るぞ。そのつもりで準備しろ」

彼女の質問には答えず、リヴァイは食事を続ける。
頑なな様子に疑問に思いつつも、nameは「わかった」と頷いた。



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