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Liebe in Vampiren





結論は、出た。
nameは決意の眼差しで彼を呼び止めた。

「昨日のことで話があるの。夜、時間ある?」
「もちろんだ。じゃあ夜に中庭で」

同期の彼は、微かに顔を赤らめて笑顔を見せる。
それにnameも微笑み返した。



17 旅人へと転落する



その日の夜、リヴァイは珍しくハンジらと一緒にいた。
夕食は静かにとりたいのだが、今夜は煩わしいくらいが返って良かった。

「それで、今度の実験はこういった試みをしようと思う。モブリットに助手をしてもらえれば特に滞りも起こらないだろうからね」
「ハッ…つまりモブリットは巨人の餌ってわけか」
「分隊長!あまりに酷すぎます!」

過剰な反応を見せるモブリットを、ハンジや他の兵士たちは面白がった。
リヴァイも鼻で笑う。
空になったコップを置いたとき、視界にnameの姿が入った。
彼女は急ぎ足で食堂を出ていくところだった。

「そういえばリヴァイ、最近nameとはどう?」
「…あ?」

ハンジはリヴァイにだけ聞こえる声で尋ねてきた。
彼女の話は今の自分にとってNGワードなのだが、それを態度に出すわけにいかなかった。

「どうもこうもあるか。あいつはただの部下だと言っただろ」
「ふーん?でも、彼女はそうじゃないと思うけどなあ」
「あいつも同じだ。俺たちは上官と部下以上の関係にはならない」
「そっか…"ただの"部下か」

ハンジはあまり納得してなさそうだ。
"ただの"部下。
自分からそう言い出したというのにリヴァイは違和感を覚える。
そんな適当な枠なはずはない。

彼女は、nameは───。

「あいつは"大事な"部下だ。だからこそ…」

傷つけたくはない。

最後はハンジにも聞こえぬ声量で呟いた。
nameは本当は明るく優しい女だ。
その顔を暗くさせているのは自分に違いない。
2人の妙な関係が彼女を狂わせている。

できるだけ早く終止符を打ってやりたい。
だが吸血鬼ゆえの欲求でそれも今は難しい。
ならばせめて、他の男と普通の恋愛らしいことをして笑顔を取り戻してほしい。
そう自分に言い聞かせることが、リヴァイの精一杯だった。



***



例の中庭が見える通路。
ここを通らずとも自室へは戻れるというのに、リヴァイの足はこの道を選ぶ。
そんな自分に彼はうんざりした。
横目で窓の下を見やる。
探し始める前に人影はすぐに見つかった。

「…………」

昨日と同じ場所に二人の男女がいる。
この暗がりでは顔は確認できない。
別の誰かかもしれない。その可能性の方が高い。
そう思えば思うほど、女の方のシルエットはnameに見えた。

(もういいだろう…)

これはとても褒められたものではない。
男女の逢瀬を盗み見るなど悪趣味にもほどがある。
そう思うのに、彼の足は床に張り付いたように動かない。

いい加減その場を離れようとした時、この遠さと暗さでもわかるほどのアクションが彼らに起きた。

「…!」

リヴァイは思わず窓に手を付いた。
吐いた息が硝子を曇らせる。彼はそれを煩わしそうに袖で拭いた。

暗がりにいる彼らは、抱き合っていた。

その瞬間、リヴァイの中で何かが音を立てて崩れた。
全身の血が逆流するような感覚に見舞われ、堪らず胸を押さえつける。
呼吸は荒く、脳が沸騰したように熱い。

気づけば彼は階段を探し、中庭へと向かい始めていた。

(何をしようというんだ?)

リヴァイ自身にもそれはわからなかった。
nameが別の男に抱かれている姿が、脳内で勝手に鮮明な映像となって再生される。
握りしめた拳が震える。
怒り?いや、もっと強い感情だ。
彼を突き動かす衝動は巨人にも抱いたことのないような殺意だった。

許せない。
nameを、あの男…───。

ふと、何かを思い立ったようにリヴァイは足を止めた。
"それ"が頭によぎってしまった。

(あの男がnameに恋しているならば、あいつも吸血鬼にしてしまえば)

普段の彼ならば、おぞましいと感じるはずの発想だ。
しかし、リヴァイはその妙案に安堵に近い悦を覚えた。

自分と同じ立場にしてしまえば、あの男はもう彼女には近寄れまい。
吸血鬼の呪いと衝動によって。

「歯が…疼く……」

進め進めと、掻き立てるような疼きだった。
リヴァイはさっきよりも落ち着いた足取りで階段を下りた。
まるで、計画的にことを運ぶように。

もうすぐ外へ出る。中庭へは1分もない。
すぐに、あの男の首に噛みついてやる。
彼の眼は赫くぎらついていた。

外への扉は開いていた。冷たい外気を感じる。
リヴァイは静かに足を踏み出した。
しかし、丁度その瞬間に人が入ってきたため、彼はぶつかりそうになった。

「!!」
「あっ…すみませ…っ!?」

謝罪の声は聞き慣れた部下のものだった。
今まさに彼の心を乱しているnameだ。
まさか、あの男女のうちの一人が本当に彼女だったとは。

nameはリヴァイの顔を見るなり顔を強張らせた。

「な…兵長どうしてっ、そのままの状態で出歩いたら危険です!」

リヴァイは自身の口元に触れた。
二本の牙が突出している。
ここへ来るまでの間に吸血鬼化していたらしい。

nameの目尻に涙のあとがある。
濡れた瞳と視線が絡み、リヴァイは強い吸血衝動に駆られた。

「ここじゃ誰かに見られるかもしれません…どこかに入っ」

周りを気にするnameの腕を掴み、リヴァイは歩き始めた。
適当な部屋を見つけると彼女を押し込むようにして中へ入った。
いくつかある内の会議室だった。

「きゃ!?」

nameの悲鳴が暗い会議室に響いた。
リヴァイは彼女を壁に押し付け、両手の自由を奪っていた。
展開の移り変わりにnameは目を白黒させている。

「兵長…どうしたんですか…吸血鬼化したまま兵舎を歩き回るなんて」
「…うるせぇ」
「っ…危険すぎます。もし私じゃなかったらどうなさるつもりだったんですか?」

nameの主張は最もなものだ。
しかし、リヴァイは言葉に窮した。
あの男の喉元に噛みついてやろうと思っていたなどど、言えるはずもない。

「中庭で何をしていた」
「えっ」
「あの男と何をしてたんだ」
「ま、まさか見ていたんですか…?」

nameは途端に動揺した。
いつもならその百面相に頬が緩みそうになるのだが、今は苛立たしくて仕方なかった。

「い、いくら兵長でも盗み見るなんてよくないと思います…!」
「誰に見られるともわからん場所で乳繰り合ってる方が悪いだろうが」
「ちっ!?そんなことしてません!兵長こそどういう目で見てるんですか!?」

水と油のように、彼らは互いに声を上げ始めていた。
リヴァイの赫い眼に凄まれてもnameは怯まなかった。
寧ろ何かが吹っ切れたかのように、思いのたけをぶつけ始めた。

「大体、何に怒ってるんですかっ?私が誰とどんな関係になっても兵長には何の影響もないでしょう!?私はっ…あなたに血を与えるだけの、ただの部下なんですから…!」

nameの瞳から大粒の涙が溢れ出した。
さっきまでの感情とは別の苦しさがリヴァイの胸を締め付ける。
リヴァイは震える彼女の両手を解放した。
そして、nameの肩に手を置いた。

「っ…このタイミングで、ですか」

彼が噛みつこうとしていると思ったのだろう、nameは顔を背けた。
リヴァイは諦めたように目を瞑っている彼女の顎を掴んで自分の方へ向けさせた。
nameの涙に濡れた瞳が見開かれる。

そして、噛みつくような口づけを落とした。


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