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Liebe in Vampiren





「好きなんだ」

突然の言葉だった。
呆気にとられたnameは目を丸くしたまま固まっている。
目の前のいかにも好青年そうな兵士は、緊張で顔が真っ赤になっていた。



15 誠意が揺るがす



賑わう夜の食堂。
トレーをテーブルに置いたnameは溜息をついた。

「name、どうしたの?」

向かいにトレーを置いたのはペトラだった。
彼女は不思議そうな顔をしたまま席に着いた。
同じ班の彼女とはこうして一緒に食事をとることも多い。

「なんでもないよ」
「嘘。溜息ついてたじゃない。同期で同じ班の私にも言えないような悩みなの?」

少しむっとした彼女にnameは苦笑いをする。
さっきの溜息を聞かれてしまっていたらしい。

「なんか、悩むのもどうかな程度のことなの」
「…本当に?さっきの溜息だけじゃない。ここ最近のnameはずっと元気なさそうだよ」
「ああ…うん、そうかな?」
「そうだよ。よければ話してよ、仲間じゃない」

ペトラは真剣な眼差しのまま少し眉を下げた。
班で唯一の女同士の彼女とはこれまでも色んなことを相談し合ってきた。
しかしnameは、リヴァイへの気持ちだけはどうしても打ち明けることができなかった。
彼女もリヴァイに想いを寄せている。そんな気がしたのだ。

nameは少し考えるように目線を下げると、ペトラを見つめ返した。
リヴァイのことは言えずとも、今日あった出来事くらいは話してみよう。

「実はね…」

nameは手のひらを口の横に当てた。
内緒話に聞き耳をたてるように、ペトラは顔を寄せる。
nameの声は賑わいにかき消されそうなほど小さなものだったが、ペトラは一言一句聞き漏らさなかった。

「告白された!?」
「ちょっ、声が大きいよ!」

その指摘通り、ペトラの声に反応した近くの兵士たちが二人を見た。
nameは気まずそうな顔をしてやや俯く。
申し訳なさそうにペトラは肩をすくめた。

「ごめん。それで相手は?」
「…前同じ班だった、同期の彼」
「えーっそうなんだ!でも確かに彼、前々からnameのこと気になってる感じあったかもしれない」
「そうなの?」

nameには自覚がなかった。
突然の告白をしてきた兵士。
彼は同期で、同い年で、同じ班だった。
何かと共通点が多かったので班が一緒だったころは結構仲が良かった。
恋愛に発展するような雰囲気があったかというと、正直なところわからない。
だが思い出してみると、リヴァイ班に引き抜かれることが決まったとき、浮かれていたnameに対し彼はあまり喜んではくれなかったかもしれない。
先を越されたことへの妬みだったとも捉えられるが、今日の告白を受けたあとだと違う解釈もできてしまう。

「いいじゃない。彼、結構格好いいし人気あるわよ」

目を輝かせるペトラにnameは首を振った。

「兵士として恋愛に溺れるのはどうかなって思ったの。気持ちはうれしいけど、でも」
「だから“悩むのもどうかな程度”だなんて言ったの?」

nameは無言で肯定を返す。
今度はペトラが呆れたような溜息をついた。

「兵士だからとか、そんな四角四面に収めようとしなくていいじゃない。自然の流れで付き合うことになったならなんの問題もないと思うけど」

その通りだと、nameは内心で同意した。
口にしなかったのはその方が都合がよかったからだ。
“兵士という運命”を理由に断ることができれば一番楽なのだ。
リヴァイが恋人を作らない理由を言ったとき、本当はペトラと同じことを言いたかった。

「それもあるけど、今はそんな気分にはなれそうもなくて」
「もったいない。じゃあ断ったのね?」
「それが、返事をする前に彼どっか行っちゃって」

顔を真っ赤にした彼は黙ったままのnameとの空間に耐えられなかったのか、彼女が言葉を発しようとした瞬間に立ち去ってしまった。
とても速い足だった。

「なるほど、それで溜息、ね」

納得したペトラは使い終わったスプーンを皿に置いた。
nameは耳の後ろを掻く。
恋の話をするのが久々だったせいか、なんだか気恥ずかしかった。



***



「name、少しいいかな」

兵舎へ戻ろうとするnameの背を聡明な声が呼び止めた。
彼女は振り返り、はっとする。
ついさっきまで噂をしていた彼が、相変わらずの緊張の面持ちで立っていた。

「えっと…」
「いいよいいよ。どうぞごゆっくり」

言い淀んだnameに変わりペトラが軽快に返事をした。
彼女はウインクをすると足早に兵舎へと戻ってしまった。
これが意中の相手ならナイスだとガッツポーズをするところだが、生憎nameは肩を落とすだけだった。

「静かなところへ行こう」

そう言って彼は歩き出す。
nameは少し躊躇うように立ち尽くしたが、仕方なくすぐに背中を追った。



彼が足を止めたのは中庭だった。
兵団の敷地で落ち着けるところといえば候補がいくつか決まっている。
中庭はそのうちの一つだった。

「今日は、その、ごめんな」

彼はバツが悪そうに頬を掻きながら照れ笑いを浮かべた。
謝っているのは告白そのものか、それとも立ち去ってしまったことか。おそらく両方だろう。

「ううん。あのね」
「name、なんか雰囲気変わったな」
「…えっ?」

nameが言いかけていたのは、もちろん告白の返事。
やんわりとノーを伝えようとした彼女の言葉を遮ったのは、これまた彼の突然の切り出しだった。

「リヴァイ班に行った頃はあまり思わなかったけど、最近のお前はなんだか、すごく大人びたように見えるよ」
「そうかな…自分ではわからないけど」
「昔は俺とよく馬鹿な話して笑いあってたのに…最近は遠くを見るような目をしてさ。このまま本当に遠い存在になってしまいそうで、そう思うとすごく怖くなったんだ」

彼の話をnameは黙って聞いた。
ペトラも言っていたが、最近の自分はそんなにおかしかっただろうか。

「なあname、お前付き合ってるやつはいるのか?」
「いないけど…」

リヴァイの姿が頭にちらついた。
途端に胸が苦しくなる。
まるで発作のようだ。

「お前が俺のことを恋愛対象としてみてないのはわかってる。けど恋人がいないなら一度考えてみてほしいんだ」
「…それは」
「毎日悲しそうな顔してるnameを見るのは嫌なんだよ。笑顔に変えられるよう頑張るから、頼む」

そう言ってくれる彼の方がずっと悲しそうな顔をしていると、nameは思った。
どうしてそんな風に思ってくれるのだろう。
考えてみてもわからない。
きっと明確な答えはないのかもしれない。
リヴァイを想うこの気持ちだって理由を聞かれても困るだけだ。
理屈などなく好きなのだから。

また、胸が痛む。
叶わないとわかっていて、それでもいいと決めたはずなのに。
“兵士だから恋愛はしない”なんて彼と同じ信念を掲げてみても、偽りの言葉はすぐに綻びを見せる。

「可能性がゼロじゃないなら、考えてくれないか?」

彼はもう一度「頼む」と言って頭を下げた。
誠実な言葉と姿勢だった。
今日この場ではっきりとノーを言いうのが憚られてしまうほどに。

「…わかった。考えて、近いうちに返事をするから」
「……ありがとう」

顔を上げた彼は、嬉しそうに眉を下げて微笑んだ。
はっとするような優しい表情だった。
nameは瞬きをして、彼を見つめ返す。

───可能性がゼロじゃないなら。

叶わない恋に鍵をして新しい恋に踏み切ってみる。
その選択肢もありなのかもしれない。
上手くいけば、考えるだけで苦しくなるこの気持ちに区切りをつけられる。
余計なことを考えずに、彼を助けて、元に戻る方法を探して。
晴れて人間に戻ることができるまで力になれれば。

そこで本当に、終わる。

ただの上官と部下に戻るだけだ。




所用を済ませたリヴァイは、自室へと戻ろうとしていた。
2階の渡り廊下は薄暗い。
窓の外に広がる空間を彼は何気なく見下ろした。
逢瀬や息抜きの場として人気の中庭には、今夜も人がいるらしい。
佇む男女が確認できた。

「…………」

ふと、リヴァイは足を止めた。
ここからでは暗くて彼らの顔は確認できない。
しかし、女のシルエットはどこかnameに似ている気がした。

そう思った瞬間。
胸の奥からじりっと焦げるような音が、リヴァイには聞こえた。


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