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Liebe in Vampiren





採血の番が回ってきたリヴァイは、予め袖を巻くっていた腕を差し出した。
看護婦が血管を確認して針を刺す。
注射器の中に吸い上げられていく自分の血液を、リヴァイはじっと見つめた。

本能的に悦ぶはずのその色に、彼はちっとも興奮しなかった。
食指が反応しない、という表現が当てはまりそうな感覚だった。
吸血鬼とは自分自身の血には関心を持たない生き物なのかもしれない。

「終わりましたよ……あら?」

針を抜いた看護婦は、幹部にガーゼを当てようとして首をかしげた。
刺した痕がなくなっているのだ。

「結構だ」

リヴァイは袖で腕を隠すと、早々に席を立った。



14 いまのままで




「痛くないですか?」

いつものソファ。晒された左肩。
彼は落ち着いた灰眼に戻っている。
白い肌には生々しい噛み跡。
ナイフを指に当てたリヴァイに、nameは聞いた。

「…痛みの大きさで言ったらお前の方がはるかに上だろ」
「そうかもしれませんけど、自分で切るのって怖くないですか?」
「騒ぐほどのことじゃない」

すっとナイフを引けば指先に赤い線ができた。
リヴァイは彼女の傷痕を指でなぞった。
じわじわと、二つの穴が塞がってく。

ふと、リヴァイの視線が彼女の首に移った。
初めて噛みついた時の痕がまだ残っていた。
色は褐色化し、古傷となりつつある。
何度かその傷も治すと彼に言われたが、nameはそれを拒否し続けていた。

「首の傷、本当にいいのか」
「はい。これは戒めみたいなものですから」
「戒めだと?」

何のだ、とリヴァイが聞いても、nameは曖昧に笑ってごまかした。

「今日はいつもより長い気がしました。健康診断で採血した影響でしょうか?」
「いや…たぶん関係ない。ここのところ血が欲しくなる頻度が上がっている気がしてならねぇ」

リヴァイに吸血を求められる頻度は、5日置きから3、4日に一回のペースへと徐々に増えてきていた。
必然的に2人で夜を過ごすことも増えた。

「…name」
「はい?」
「お前、恋人はいないのか」
「は…はい!?」

nameは思わず声が裏返ってしまった。
唐突で、思ってもみない質問だった。
何度も目を瞬かせて逆に聞き返す。

「ど、どうして急にそんなことを?」
「…もし相手がいるなら、俺とこうして会っていることは面白くねぇだろうと思ってな。今更だが」

nameは余計に驚いた。
この人もそんなことを気にするのかと思うと意外だった。
飲み会の席でも、彼は恋愛に関しての話を一切しない。

「いませんよ。だから…いらぬ心配です」
「…そうか」

nameは前髪を撫でつけた。
こんなことを聞かれたからって期待しちゃいけない。
彼が自分に向けている感情は恋愛とは別物だ。
あのシャワールームも、初めてのキスも。
成り行きでそうなったのだろう。
リヴァイが変わらずに吸血し続けられてるのだから、そうに違いない。

そうやって何度も自分に言い聞かせているのに、この心は思うようにならない。

「リヴァイ兵長は…いらっしゃるんですか」

nameは緊張しながら聞き返した。
しかし、その質問にリヴァイは動じることはなかった。

「いねぇな。作るつもりもない」
「…何故ですか?」
「初めて壁外に出た時に決めたことだ。いつ死ぬともわからんからな。…最も、今は調査兵じゃなくともそんな浮ついたことをできる身ではないが」

nameは納得したように頷いた。
彼らしい理由だったからだ。

(でも、それを知ったところで何も変わらない)

nameの目元に影が差す。
例えば彼と両想いになれたとしても、幸せな未来は待っていない。
愛する人の血を吸えない彼は血に飢えてしまう。
本能に突き動かされた彼は、誰か、他の女の血を飲もうとするだろう。

それは嫌だった。

ならば、思いが通じ合えなくとも今のままでいい。
こんな感情はおかしいのだろう。
けれど、今なら理解できる気がした。
歪んだ愛で娘を独占しようとした、あの旅人の気持ちが。



***



夜の医務室。
人気のない白い空間は不気味にも感じる。
だがそんなことに怯える様子もなく、ハンジは目的のものを探した。

「…あったあった」

大量のカルテの中から一つを見つけ出した。
そこに書かれた名前と番号を確認する。
同じ番号の試験管を端から慎重に探していく。
意外にもそれはすぐに見つかった。

ハンジは血の入った試験管とカルテの両方をジャケットの内側に隠すと、速足で医務室を後にした。


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