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Liebe in Vampiren





温水が出なければ冷水も出ない。
うんともすんとも言わぬシャワーヘッドをリヴァイは睨みつけた。
いくら凄んだところで無機物は機嫌を直さない。
仕方なく諦めた彼は、着替えを持って部屋を出る準備を始めた。
自室のシャワーが故障したのだ。

今日は書類が溜まっていたために、執務を終えるのに随分と時間を要してしまった。
そのせいで風呂の時間も遅れたわけだが、加えてシャワーの故障とは全くついてない。
溜息が出るのも無理なかった。

通路は人の気配がなかった。
流石にこの時間だ、皆就寝の体勢に入っているのだろう。

自室を得て以来、大浴場に来るのは数年ぶりのことだった。
二つの入り口の前で彼は静止した。
男女の表記がないことに疑問を覚えたのだ。

(確か、右が男専用だったな)

数年前とはいえ毎日通った場所を間違えるはずがない。
リヴァイは右側の入り口に迷わず進んだ。



13 秘めた音



脱衣場にも人の気配はなかった。
リヴァイは少々懐かしい気持ちになった。
同時に、共有スペースゆえの汚れや湿りに気がつく。
また一つ溜息をついた。
明朝すぐにでも、修理申請を出さねばなるまい。

さっさとシャワーを済ませてしまおうと速やかに服を脱ぎ始める。
すると、浴場から音がした。
浴びている人はいたようだ。
さして気にも留めず、全裸になったリヴァイは浴場の扉へ向かった。
その瞬間、ちょうど扉が開いた。

「…………」

あまりの衝撃的な光景にリヴァイは驚愕した。
三白眼が大きく見開かれている。
相手の顔を見て、おそらく自分も全く同じ表情になっているのだろうと思った。

一糸纏わぬnameが、そこにいた。


「きゃあああああああああああ」

高らかな悲鳴にリヴァイはぎょっとした。
急いで背を向ける。
不覚にも、彼女の裸体に釘付けになった自分がいた。

「な、な、なんでっ…!リヴァイ兵長が!?」
「それは俺の台詞だ…こっちは男専用のはずだろう」
「去年改修工事をして男子風呂は別棟に移りました!ここはどっちも女専用です!」
「!」

そういえばそんな話があったとリヴァイは思い出した。
自室のシャワールームしか使わない彼は関心を持っていなかったのだ。

「悪かった…すぐに出るから待っていろ」
「は、はい」

リヴァイの声色は落ち着いているものだったが、内心はかなり動揺していた。
これが他の女兵士なら何ということもなかった。
しかし、相手がnameだったことがよくなかった。
さっき釘付けになった彼女の姿に、体がよからぬ熱を持ってしまった。

彼は慌てて頭を振った。
気のせいだと自分に言い聞かせる。
胸にくすぶる感情から必死に目を背けた。

「……?」

服を手に持ったリヴァイは動きを止めた。
ふと目の端に入った、鏡の中の自分に違和感を覚えたのだ。
後ろは振り向かぬように、そっと横の鏡を見た。

「!?」

彼はまた、驚愕した。
息を呑むその気配に気づいたのか、nameは躊躇いがちに口を開いた。

「兵長…?どうされたんです?」
「…………」
「兵長?」

リヴァイが返答せずにいたので、nameは彼の首から下は見ないように、ゆっくりと首だけで振り向いた。

「あ…」

今度はnameが息を飲む番だった。
赫眼になったリヴァイが、鏡と見つめあっていた。

「兵長…吸血鬼に…!」

彼女の声にはっとして、リヴァイは鏡から目を逸らした。
何故、急に吸血鬼化してしまったのか彼にはわからなかった。
おかしな熱で全身の血が騒いだからだろうか。
だが今は、そんなことはどうでもよかった。

「……とんだ化け物だ」

リヴァイは吐き捨てるように言った。
吸血鬼になった自分をこうも近くで直視したのは初めてのことだった。
赫い眼に鋭利な二本の牙。
おぞましいと思った。

そんな心情を悟ったのか、nameはそっと彼に近寄った。
濡れた腕がリヴァイの背中へ伸びる。
しかし、その手が触れたのは彼のそばにあった脱衣籠だった。
nameは自分の衣服の上に置いてあったタオル引っ張った。
そしてすぐに自分の体を巻いた。

ぺたぺたと、彼女が床を踏む音が聞こえる。
沈んだ気分のままリヴァイは着替えを再開しようとした。
すると、室内が少し暗くなった。
驚いて暗くなった方を見れば、nameが蝋燭の火を吹き消しているところだった。
また一つ、暗さが増した。

「これで鏡は見えません。お互いの姿も」

全て消し終えたnameは今度こそリヴァイに近寄った。

「消しすぎだ。お前の顔も見えねぇだろうが」
「いいんです、見えなくて」

声色から彼女が笑っているのがわかる。
リヴァイは不思議とほっとしていた。

「血を飲んでください、人が来る前に」

彼女の凛とした声が暗闇に響いた。
恐怖も迷いも感じさせない。
思えば、リヴァイとnameがこうして話すのは久しぶりだった。
同じ班なので毎日顔を合わせるし、数日に一回は部屋に呼んではいるが、ここのところ話が弾むことはなかった。
傷の回復の件以降、気まずい雰囲気を引き摺っていたのだ。

「声が遠いな。もっと近づいて、俺の手をお前の肩に誘導しろ」
「えっ、私が、ですか?」
「変なところを触られたくなきゃな」
「!わ、わかりました!」

暗闇のなかでもnameの表情がころころと変わっているのが手に取るようにわかり、リヴァイは思わず笑いそうになった。
さっきの妙な体の昂ぶりは落ち着いたようだ。
これなら問題ない。
彼が安堵した、次の瞬間だった。

「えっ、真っ暗だよ!」
「どうしてー?まだ消灯時間じゃないのに」

複数の女の声が脱衣場の入り口から聞こえた。
リヴァイとnameは動きの一切を止める。
息すらも止め、気配を消した。
どうするべきかと、彼は頭をフル回転させる。

「蝋燭の近くにマッチがあるはずだよ。探そう」

1人の女の提案に全員が賛成した。

(待て、待て待て…!)

冷汗が背中を伝うのをリヴァイは感じた。
火を一つでも灯されたら終わりだ。
もし今の姿を見られたら、全員の血を吸わなければならなくなる。
吸血鬼の衝動には抗えない。
だからといって、この暗闇の中で誰にも悟られずにここを去ることは困難だろう。
服を抱えることはできたとしても、全裸で外に出るわけにもいくまい。

ほんの数秒の間で、リヴァイの頭にはあらゆる脱出法が浮かんでは消えた。
女たちが散り散りになってマッチを探し始めたのがわかった。
ああ、今日は災難続きだ。

「!」

絶望感に包まれたリヴァイを、誰かの腕が引っ張った。
言うまでもなくnameだ。
彼女はできるだけ音を立てず、彼を浴場の扉まで導いた。
そして、素早く扉を開けて互いの身を滑り込ませた。

突然の扉の開閉に女たちが驚いたようだったが、それは気にしていられなかった。
nameはリヴァイの腕を掴んだまま一番奥のシャワーブースまで走ると、急いで中に身を忍ばせた。
スライド式の鍵が施錠された。

「あ、危なかったですね…!」

背を向けたままnameが言った。
大した距離を走ったわけでもないのに肩が上下しているのは、緊迫した状況で息を止めていたからに違いない。

「…助かった」

それはリヴァイの本心だった。
ここへ逃げ込むという手段は咄嗟に思いつかなかった。
彼女の大胆な行動に、またしても助けられたのだ。

「どうした」
「……兵長は今、その…」
「…ああ、そうか」

リヴァイはこっちを向こうとしない彼女を疑問に思ったが、考えればすぐにわかることだった。
自分は今、何も纏っていない。
壁掛けの松明のお陰で浴場は明るいまま。
後ろからでも見えるnameの耳は赤くなっていた。

「ここを出るまで耐えられそうですか…?」
「悪いが…それはできそうにねぇな」

リヴァイはnameの両肩を掴んだ。
疼き始めた歯が、根付いた本能が指令を出している。
その肌に噛みつきたいと。

nameは諦めたように頷いた。
一度火がついた吸血衝動を抑えられないことは、もうよくわかっている。
後ろを向いて俯く彼女を引き寄せると、リヴァイは白いうなじに歯を突き立てた。

「ぁ…っ!」

声を上げそうになったnameは慌てて手で口を押さえた。
ちょうどその時、脱衣場の扉が開いた。
女たちが入ってきたようだ。
リヴァイは手探りでシャワーの蛇口を掴むと、勢いよく開の方向へ回した。
2人の体と床を湯が打ち始める。
少しは音を消せそうだ。

「もう遅いから早めに出よ」
「だね。私、明日はデートだし」

女たちは談笑しながらシャワーを浴び始めた。
普段気にもならない世間話が、今の2人には酷く呑気でお気楽なものに聞こえた。

「っ…」

リヴァイは歯を引き抜き、今度は舌を這わせる。
背中を伝って鮮血がこぼれ落ちる。
その一滴も残すまいと下から舐め上げた。
その度にぞくぞくとnameは体をのけ反らせた。
声を必死に殺しているのがわかる。
彼女の負担にならないようにすべきなのに、その反応をもっと見たいと思う自分がいる。

「name」

リヴァイはnameの耳元で名前を呼んだ。
声を出すのはあまりに危険な行為だが、幸いシャワーがかき消してくれたようだ。

首だけで振り向いた彼女と目が合う。
涙目になった瞳はあまりに扇情的だった。nameがそのまま体ごとこちらを向こうとしたので、リヴァイは思わず彼女を後ろから抱きすくめて静止させた。

「…!」

nameが驚き、身を固めた。
自分の胸板と彼女の背中が触れ合い、2人の間にとめどなくシャワーの湯が注がれる。
濡れたnameの耳が赤い。
唇を寄せ、もう一度呼んでみる。

「… name」

ぴくりとnameは肩を震わせた。
そのままうなじに口付ける。

(クソ…俺は何をやってやがる)

血は十分に飲んだ。
もう平常時に戻っているはずなのに、彼女に触れるのを止められない。
嫌でも下半身が昂ってしまい、抱きしめつつも腰は引いていた。

女兵士たちの談笑は続いている。
nameの首やうなじに口付けながら、リヴァイは思った。
できることならまだ、もう暫く、そこで笑ってろと。

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