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Liebe in Vampiren





寝返りを打った反動でnameは目が覚めた。
薄らと瞼を上げると、陽の差し込む窓と丸テーブルが見えた。
テーブルの上には何もない。
何度か瞬きを繰り返す。
徐々に頭が動き出し、彼女はガバッと体を起こした。

「っ!」

頭に軽い痛みを覚えた。
初めて酒を飲んだ時も同じ痛みを伴ったことを思い出す。
昨晩の記憶が曖昧だ。
この部屋で楽しい時間を過ごしたのは確かなはずだが。

(どうしてベッドに…!?)

ふらふらと寄りかかるように扉を開けた。
思ったよりも大きな音が出た。
その音で目覚めたらしいリヴァイは体を起こした。
彼は昨晩、応接セットのソファで眠ったのだ。

「え…あ、兵長?あれ…私…」

nameは目を白黒させながら意味の無い言葉を発する。
リヴァイはテーブルの銀時計を見た。
彼女が自室に戻って大浴場に行くには際どい時間だった。

「ここのシャワーを使っていくか?」
「!!いえっ、し、失礼しました!!」

彼女を気遣ったリヴァイの懇意は、このシチュエーションでは妙に意味深で、威力が強すぎた。
nameは首元だらしなく、乱れた髪のまま慌てて執務室を飛び出した。



09 警告音



「name、おはよう。随分と早起き……」

ハンジの言葉が途切れたのは、nameが猛スピードで横を通り過ぎていったからだ。
挙げた片手が虚しく残る。
疑問符を浮かべながらハンジは彼女の走り去った方向を振り返った。
彼女は随分と焦っているようだった。
上官の挨拶をスルーしてしまうほどに。

「ハンジ」

後ろから声が聞こえ、ハンジは再び振り返る。
リヴァイがこちらへ歩いてくるところだった。

「やあリヴァイ。私服ってことは休み?」
「いや、通常通りだ。それより丁度いい、これはお前のだったな」

リヴァイがかざした古本に、ハンジは少し驚いた表情になった。

「それはnameに貸したはずだけど、どうしてリヴァイが持ってるの?」
「あいつが随分前に忘れていったものだ。追いかけているところだったが、お前に返した方が早いな」

昨晩のうちにnameに渡そうと思っていたのだが、リヴァイはすっかりそれを忘れていた。
このまま彼女に追いつくのは容易いが、本来の持ち主であるハンジに会ったのならその必要はない。
リヴァイは本を返却した。
受け取った本をハンジは無表情で見下ろす。
ややあって顔を上げると、彼女はリヴァイを指さした。

「もしかして、君が噂の吸血鬼?」
「……あ?」

素っ頓狂なハンジの言葉。
リヴァイは露骨に眉根を寄せる。
しかし、一瞬だけ彼の瞼がぴくりと動いたのをハンジは見逃さなかった。

「いや、なんでもないよ。それよりこの民話は読んだ?リヴァイの好みには合わないだろうけど」
「ああ、俺の趣味じゃない。最後の挿絵は特に」
「あっはは、やっぱりね」

ハンジはパラパラと本をめくった。
吸血鬼の項を斜め読みしている。

「ところで、最近はnameと一緒にいることが多い気がするけど、君たちはいつからそういう関係になったの?」
「…妙な勘ぐりをするな。あいつは、ただの部下だ」
「そうなの?なら私の早とちりか」
「…………」

リヴァイの目線は窓の外に投げられている。
普段よりも歯切れの悪い返答だった。
nameが走ってきた方向にあるのは、空き部屋と、リヴァイの部屋しかない。
こんな朝っぱらから一体何の用があるのだろう。
しかし、ハンジはそれについては聞かないことにした。

「でもさ、nameは色々と気が利くしいい子だよね。うちの班にもああいう子がほしいよ」
「まあ…あいつは危なっかしいところもあるが腕は確かだ。班から外すつもりはない」
「へえ?やっぱり気に入ってるんだね」

リヴァイは鋭い眼光をハンジに向けた。

「さっきから絡むじゃねぇか、クソメガネよ」
「君の部下を褒めてるんだよ。羨ましいくらい献身的な子じゃないか」

レンズの向こうでハンジは目を細めて笑う。
リヴァイは鼻を鳴らすと、すぐに背を向けた。
彼女の妙な口振りに苛立ってきていたし、表情には出さないものの、最初の素っ頓狂な質問には内心かなり驚いていた。

「この吸血鬼が恋した娘も、nameのような子だったのかもね」

彼女はパタンと本を閉じる。
リヴァイの足が止まった。

「優しく献身的な娘。でも、吸血鬼の衝動と呪いがある限り、結ばれぬ運命かもしれない。悲しい物語だよね。リヴァイもそう思うだろう?」
「……くだらねぇな」

リヴァイは今度こそ元来た廊下を戻り始めた。
彼女ももう止めることはなかった。



***



自室に戻ったリヴァイは、昨晩と同じ椅子に腰かけた。
向かいで楽しそうに笑っていたnameの残像が見える気がする。

先のハンジとの会話が脳内で何度も再生されている。

『吸血鬼の衝動と呪いがある限り』

現実を知らせる言葉。
まるで警告音のように、頭の中でリフレインする。
リヴァイは口を結び、固く目を閉じた。

何を浮かれていたのか。
それが許されないことは、彼女が真っ先に教えに来てくれたじゃないか。

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