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Liebe in Vampiren





リヴァイの執務室。
置かれているのは執務机、本棚、応接セット、そして暖炉。
その奥に、彼のプライベート空間はあった。

リヴァイは不思議な気持ちで部屋の鍵を開けた。
この部屋に人を招き入れるのは初めてのことだ。

ドアを開けてもnameはなかなか中へ入ろうとしない。
窓際の小さな丸テーブルと二脚の椅子。
ぴんと張られたベッドのシーツ。
隙間なく閉じたクロゼット。
整頓されているというよりは殺風景なこの部屋を、nameはまじまじと見つめていた。

「早く入れ」

椅子に座るよう促すと、nameは緊張した面持ちで腰を下ろした。

リヴァイは買ったばかりのワインと、綺麗に磨かれたグラスを二本置いた。
慣れた手つきでコルクを開け始める。
その様子をnameが嬉しそうに眺めていた。
ボンボンショコラさえ苦手な彼女が、このワインを飲めるはずもないだろうに。

余りにも下手くそな誘いをしたとリヴァイは思った。
酒の飲めない彼女を、酒を理由に引き止めるとは。
しかしどうしてか、今夜は彼女を帰したくなかった。

リヴァイがグラスを掲げるとnameも彼に習った。
ガラス同士がぶつかる美しい音が響いた。



08 違反行為



リヴァイは酒には強い方だ。
しかし、今夜の彼は珍しくすぐに上機嫌になっていた。
理由は明白。目の前にnameがいるからだ。
よく笑い、たくさんの表情を見せる彼女は一緒にいて飽きない。
班に引き抜いてから毎日顔を合わせていたというのに、今日一日で見た顔の方が多い気がした。
もともとよく喋る彼は、美味いワインとnameのお陰で更に饒舌になっていた。

「中央もまあ、たまには悪くない。次に行くときはまた、クソみてぇな会議のための出張になるだろうが」
「私からしたら羨ましいくらいですよ。あの綺麗な街並みを見れるだけで充分に楽しいというか」
「大袈裟なやつだ。頻繁に足を運びたけりゃ出世するんだな。嫌でも行けるようになる」
「出世なんて、そんな。役職への執着もないのに」

nameは緩んだ表情で手を振った。
頬が赤く、呂律も怪しい。
グラスに僅かに残ったワインを飲み下すと、彼女は苦々しい表情をした。

「無理をするな。その一杯でやめておけ」

リヴァイは自分のグラスにだけワインを注いだ。
これは2本目の三杯目だ。
シュル、と紐がほどける音がする。
買ったばかりのチョコレートの箱をnameが開け始めていた。
淡いブラウンが顔を出す。
一粒口に入れると、彼女のとろんとした目が更に蕩けた。

「よくもまあ飽きずに食えるもんだ」
「飽きませんよ。兵長もそうでしょう?」
「まあ…悪くない」

リヴァイはグラスを揺らした。
回る真紅を眺める。
上質で美味いワインだ。
今夜は血を絶って4日目だが、あまり体が辛くない気がする。
代用品としてはまずまずといったところか。

「私も、もっと飲める口ならよかったです」
「酒が飲めて得することなんざ大してねぇが、何故そう思う?」
「そうですね…例えば今なら、兵長をもっと楽しませることが出来たんじゃないかと思うんです。相手の酔いが早すぎるとつまらなく感じませんか?」
「…ペースが違おうが、気の合う相手ならそれだけで充分だろ」
「そういうものですか?」
「だから今夜お前を誘った」
「!」

nameの顔がさらに赤くなる。
両手で顔を扇ぐ仕草をする彼女を見ながらリヴァイは思った。
自分も大概、酔っているのかもしれないと。
堪らず苦笑しそうになった。
どうして今夜はこんなにも楽しい気分になる。

「お酒だけじゃなく…私はもっと強くなりたいです。もっと…」

nameは壁に左半身を凭れさせた。
うつろな目で空っぽのグラスを眺めている。

「私が強ければ……兵長は」

nameは揺れる瞳を瞼で隠した。
後半は尻すぼみになっていったが、彼女が何を言わんとしたのかリヴァイは想像できた。
ランチの時もそうだった。
彼女はおそらく、考えてしまうのだろう。
あの晩、自分が上手くやれればリヴァイに迷惑をかけずに済んだはずだと。
彼に庇ってもらったことをずっと後悔しているのかもしれない。

「…馬鹿なやつだ」

リヴァイは小さく呟いた。
そんな後悔を引き摺る必要はないのに。
そう思う一方で彼の心は微かに揺さぶられた。
nameがそうまで思ってくれるのは、自分が直属の上官だからだろうか。
彼にしては、やはり珍しいことを考えていた。

「…おい」

黙り込んだままのnameに声をかけた。
しかし、呼びかけても薄い瞼は閉じられたまま。
規則的な呼吸で胸が上下している。

「…………」

静寂。
彼女の吐息だけが微かに聞こえる。
リヴァイは何となしに箱に手を伸ばすと、チョコレートを一粒口に放り込んだ。
ミルクの甘ったるい味だ。
舌に滞留するそれをワインで飲み下す。
彼は静かに立ち上がった。

リヴァイが横に来てもnameは目を覚まさない。
完全に眠ってしまったようだ。
彼女の肩と膝下に腕を回すと、リヴァイはそっと彼女を抱き上げた。
そして、ゆっくりとベッドに横たわらせた。

自分以外の人間がベッドに上がることは何よりも不快なはずなのに、彼は躊躇しなかった。
彼女の重みでシーツに皺が寄る。
リヴァイは波打つ白に手を付いた。

「name」

反応はない。
彼女を組み敷く姿勢のまま、リヴァイの視線は白い首筋へと移る。
カットソーがずれ、肩の傷が目に入った。
できるだけ傷を増やすまいと、彼は同じところを噛むようにしていた。
それ故に傷は深く、とても痛々しいものとなっている。
堪らず、手でそっと傷を見えないようにした。

「俺も同じだ」

後悔をしているのはnameだけではない。
経緯はあれど、この傷をつけているのは自分なのだから。

「…name」

もう一度名前を呼ぶ。
今度は起きないであろう声量で。
nameの頬は淡く色づき、唇は微かに開いていた。
リヴァイは悩ましげに眉根を寄せる。
そして、身を屈めた。

ルール違反だ。
酔った部下を組み敷いてこんなことをするなど。
自分の意義に反する行為なのに、彼は止めることができなかった。
吸血鬼の本能とは違う、別の衝動を。

顔を寄せると互いの息が触れた。
唇からは微かにアルコールの香りがする。
あどけない表情で眠るnameに、リヴァイはキスを落とした。
途端、唇が甘く痺れるのを感じた。
そっと唇を離す。
しかしリヴァイはすぐにもう一度口付けた。
今度は味わうように、何度も啄む。

「ん…」

nameの口から微かに声が漏れる。
今は目覚めないでくれとリヴァイは願った。
そして、初めて彼女に口付けた時のことを思い出した。
恐怖に怯える彼女の気を紛らわせるために、咄嗟にしたあのくちづけを。

なら、今のこれは何だ?

(思春期のガキじゃあるまい)

唇が触れ合う度、ちりちりと胸が刺激される。
いいや違う。これは酒のせいだ。
そう自分に言い聞かせる。
リヴァイは慈しむようなキスを落としながら、芽生えた感情に蓋をした。

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