06


家で、たいしておもしろくもなんともないテレビを見ながら、コンビニで買ってきたお弁当を食べる。いつまでも蔵ノ介を想い続けて、何回も蔵ノ介に彼女がいることも考えて来た。それでも私は好きであり続けば、もしかしたら蔵ノ介は帰って来てくれるんじゃないか、って思っていた。そんな自分がバカみたいだ。




私と蔵ノ介が出会ったのは、中学2年生のとき。同じクラスで隣の席になったのが始まり。蔵ノ介はかっこいいし、テニスがうまいし、頭も良かったから、かなりモテていた。私はそんな蔵ノ介を1年の頃から眺めて憧れているだけだったけど、隣の席になって、しゃべるようになって、すぐに好きになった。そんな2年生の夏。蔵ノ介がテニス部部長になって初めての全国大会が終わったあとに告白された。


「来年の全国大会で優勝するためには、お前にずっとそばにおってほしいねん」


少し照れながら言ってくれたその言葉に私は涙がでるほど嬉しかったのを今でも覚えている。蔵ノ介との付き合いは楽しかった。すごく優しかったし、一番に私のことを考えてくれていた。そんな蔵ノ介に甘えていたのも事実で、蔵ノ介はずっとそばにいるんだって思ってた。でも、全国大会が終わったあとぐらいに、蔵ノ介と同じテニス部の後輩である財前くんからある事実を聞かされた。


「白石部長、昨日知らない女と歩いてましたよ」

「え?」

「仲良さげな感じでしたわ」


その噂は気付けばあっという間に学校中に広がって。真実なんて知らないまま、私は蔵ノ介と距離を置いた。ちょうど3年生でクラスが離れてたから、よかったと思った。避けるのも簡単だった。また遠くから蔵ノ介を見る日々に戻ってしまったんだ。


「なんや、浮かない顔しやがって。そない気になるなら行ったらええやんけ」

「所詮ユウジくんには乙女心はわかんないんだよ」

「なんやて!?」


卒業式の日、結局遠くから見てるだけの私に、ユウジくんが声をかけた。ユウジくんなんて小春ちゃんにだって振られたくせに。でもそれがご尤もなことだとも思った。皆、楽しそうに写真撮ったりしてんのに、私は今も教室でぼーっと外を見てるなんて。バカみたい。私は鞄を手にとって帰る支度をした。まだ教室にいるユウジくんと小春ちゃんにバイバイと言って教室を出た。

蔵ノ介は今頃、たくさんの女の子からボタンを迫られて、写真撮ったりしてるんだろうな、なんて思ったら胸が苦しくなった。下駄箱で、靴を履き替え、もう履かない上履きは袋にしまった。卒業なんて呆気ないものだ。そう思って下駄箱から出ようとしたところで、蔵ノ介とバッタリ会ってしまった。

会いたくなんてなかったのに。


蔵ノ介は何も言わないまま、私も何も言えないまま、時間だけが流れていく。口を開いたのは蔵ノ介だった。すまん、と一言だけ。それは何にたいしての謝りなのだろうか。あれが本当のことだったから?もう私とは付き合えないから?


「迷惑かもしれへんけど、これだけもらってくれへんかな?」

「………」


そう言って蔵ノ介が私に渡した制服のボタンは、今も部屋に置いてある。正直第二ボタンであるかもわからないけど、私の為にボタンを残してくれていたことが嬉しかった。まだ私のことを少なからず好きでいてくれてるんだ、と思えた。


これがまだあるから、私は蔵ノ介を忘れることができないのだろうか。もしかしたら戻って来てくれるんじゃないかって思っているのはこれのせいなのだろうか。

もらわなければ、悩む必要なんてなかったのかもしれない。



あの頃に戻って、これを返せたらいいのに

(何回も捨てようとしたボタンは)
(結局今も捨てられずにいる)



END





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