10


間もなく約束の20分を迎える。時刻は午前4時。外はまだ真っ暗で、静かだだった。私って一体昨日はいつまで飲んでていつここに来たのだろうか。それすらも覚えてないなんて、お酒の飲みすぎには注意しなきゃ。そして20分が経ったと思われるとき、私は侑士くんにベッドに押し倒された。うわ、正直他愛もない話をしてたから押し倒されるとは思ってなかった。


「侑士くん?」

「20分経ったで」


いやだ、怖い。少し震える私を見て、可愛いなぁ、と言う侑士くん。侑士くんの口がだんだんと私の首に近づく。怖い、いやだ、やだ。ぎゅっと目を瞑るとドンドンとドアを叩く音がした。


「ええとこやのに。でも残念。もう約束の20分は過ぎてしもうてん。堪忍な」

「やだっ。助けて!」


私が少し大きな声で言うと、ドアの向こうから、私を呼ぶ声が聞こえた。それは謙也くんの声ではなく、懐かしい私を呼ぶ声。なんで…


「くらっ、蔵ノ介!」

「莉子!侑士クン、開けてくれへんか」

「何や。謙也ちゃうん」


侑士くんは、私から離れてドアを開けた。ドアの向こうにいる蔵ノ介と目が合ったとき、嬉しくて涙があふれた。なんで、蔵ノ介が…っ。


「莉子。大丈夫か」

「蔵…っ」

「何もしてへんで」

「さよか。ほならええわ。すまんな、侑士クン。莉子は返してもらうわ」

「返すもなにも俺のちゃうしなぁ」


蔵ノ介は私の荷物を持って、私を支えながら歩いてくれた。出るときに侑士くんが、言いたいことは言わなアカンで、と言ってくれた。ごめんね、ありがとう、と言うと侑士くんは苦笑いした。

ホテルから出て、蔵ノ介はタクシーをひろってくれた。特に会話はなかったけど、繋がれた手がすごくあたたかかった。


「どうして、来てくれたの?」

「謙也から、電話かかってきて。莉子が侑士に襲われる言うて」

「そっか」

「場所とかツリーが見えることしかわからんかったけど、頭必死に働かせて、辿りついたんや」

「ありがとう」

「酒飲まんほうがええって言うたのに」

「いろいろあって…」


私が申し訳なく言うと、蔵ノ介は、だからほっとけへんねん、と言った。だけど、そのタイミングでタクシーが家についてしまった。


「蔵ノ介。今日は本当にありがとう。助かった。話したいことがあるから、明日の夜10時に駅前のツリーのところで待ってる」

「俺は…」

「待ってるから」


私は運転手さんにお金を渡し、先に降りた。侑士くんに言われた、伝えたいことは伝えなきゃ伝わらない。私はあの頃から何も伝えられずにきた。だからこそ、伝えなきゃいけないんだ、本当の気持ちを。



やっぱり私には、あなたしかいないのです

(好き)
(ただそれだけ、)



END





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