落書き



「なぁ、頼む!ノート貸して」

「やだ」

「頼むって!ホント!お願い!」

「切原に貸すぐらいなら破ったほうがマシ」

「うわ、性格悪!」

「悪くて結構」




人にノートを請求したこの男、切原赤也。テニス部エースでワカメヘアー。頭が悪く遅刻魔である。絶対貸さないよ。この前切原に貸したら落書きだらけで返ってきたもん。絶対に貸したくない。



「ほんと頼むよ、まゆ!英語やべーんだよ!当たるんだよ!」

「知らないよ。やってこない切原が悪いんでしょ」

「頼れるのお前だけなんだよ!お願い」

「お願いします、まゆ様って言ったら貸してあげる」

「お願いします、まゆ様」

「お前にはプライドってものがないのか」



アッサリ言うとかつまんない奴。なんで私がおそらく日本一英語ができないバカの隣の席なんだろうか。仕方なくノートを渡すと、サンキュと言ってノートを受け取った。


英語の授業が始まり、もちろん切原が当たって、でも私のノートを持っている切原はなんとか答えていた。発音はもちろん違って怒られてたけど。




「いやー、マジ助かった!」

「今度何か奢ってよね」

「おう!まかせとけ!」




ジャッカル先輩が奢ってくれるっしょ!とか言っている切原。私的にジャッカル先輩がかわいそうで仕方ないんだけど。返してもらったノートを見ると、やはり落書きがしてあった。本当に人のノートだということをわかっているのだろうか。下手くその絵の中に鬼の角の生えた人を矢印して真田副部長とか書いてあるし、これ真田先輩に見せたら鉄拳だね。しかもその後ろのよくわからないがおそろしいオーラをまとっている人が幸村部長とか書いてあるから思わず吹いた。似てないにもほどがある。



「切原、絵下手すぎ」

「それ結構うまく描けたと思ったんだけど」

「これ幸村先輩に見せていい?」

「わー!ダメダメダメ!俺、そんなことされたら殺されるっつーの」



じゃあ描くなよ、とか思ったり。何の気なしに次のページを開こうとしたら切原にわー!とか叫ばれた。何!?



「開くな!次のページは家に帰るまで開くな!」

「はぁ!?」

「ホント笑えるっつーか、超おもしろい絵描いたからさ、それは家に帰ってから見てほしいなーとか思ったり」

「何、言ってんの」

「いいから家に帰ってから開け、わかったな!」

「はいはい」



バカじゃないの?切原の絵がそんなにおもしろいわけないじゃん。もちろん切原のそんな言いつけ守るわけもなく、私は放課後誰もいなくなった教室でノートを開いた。



「は、ほんと…バカ」




ノートの上の方に小さく、まゆが好きと書かれていた。ホントバカじゃない?切原って。面と向かって言えっつーの。ヘタレかよ。私は切原が描いた落書きに少し付け足してそれをハサミで切り取って、部活中のテニス部のところまで行った。切原はいなかったから、幸村先輩に切原に渡すようにお願いして私は学校を出た。


明日、どんな顔して切原に会おうか、そんなことばかり考えた。




私も好きだよ、ずっと前からね

(赤也。これはどういうことかな?)
(げ、幸村部長…それをどこで)
(上原さんからさっきお前に渡すように頼まれたんだ)
(それは、)
(冗談だよ。はい、ラブレター)
(ラブ…えっ、あっ、えぇ!?)
(青春だね。はい、グラウンド50周)
(え!(やっぱ怒ってんじゃん))



END





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