08



押し倒し事件から数日、私は教室でもんもんと悩んでいた。もちろんあの押し倒し事件の翌日、登校してきた白石にバレ、なぜか一日中正座させられた。マジ鬼畜。そして3日間の一氏くんへの接触が禁止された。そしてテニスコート、およびテニス部部室への接近も1週間禁止されている。


「ユウジの女嫌いがまた再発したな、あれは」

「だっていっそのこと体奪ってまえば早いかなって」

「それじゃアカンやろ。お前はどこの痴女やねん」

「すいませんでした。ホンマに。反省しとります」

「ホンマに反省しとるんか?」

「もうホンマに!っていうか今はもう一氏くん不足で死んでまいそうです」


はぁ、と溜め息を一つ吐いた白石。

いや、ほんと白石にもお世話になってたのに、あんな行動を起こしてしまい、ホンマに申し訳ない気持ちでいっぱいっす。


「お前が元気ないなんて、変な感じや。いっつもうるさいのに」

「謙也。ほんといつもうるさくてすんまそん」

「うわ、キモいっちゅー話や。キャラ変わりすぎやろ」

「そないに反省しとるんやったら、お前に機会与えたるわ」

「へ?」

「ユウジと話してみ。わかりやすいぐらいにお前の好きな人がユウジやってこと伝えんねん。それでも伝わらんかったら、そのときは少し距離置いてみ」

「白石……」

「ええか?」

「うん!」



その8、わかりやすいぐらいに伝えてみましょう



白石、マジ神!鬼畜とか言うたけど、撤回や!私は白石が放課後、一氏くんを連れてきてくれるということで、教室で待っている。一氏くんと二人きりっちゅーのは、初めてやから緊張する。


「はぁ!?何で俺がアイツの話、聞かなアカンねん!また襲われたらどないすんねん」

「もう襲わんって反省しとったんや。謝りたいって。それに俺がちゃんと教室の外におるからええやろ?」

「何を今さら話すっちゅーねん」

「ええから、ほら!雪、連れてきたで。あとは二人で」


白石がぽーんと一氏くんを教室の中に入れて、私と二人きりになった。ど、どないしよ。いざとなったら緊張してまって言葉に詰まる。


「なんやねん。何もないんやったら帰るで」

「あ、ご、ごめんなさい!」

「………」

「この間はあんなことをしてしまい、ホンマにごめんなさい」

「……はぁー。もうええわ。何かお前に頭下げられると今さら変な感じする」

「…ホンマにごめん」

「もうええっちゅーねん。で?何や。話ってそれだけか?」

「ちゃうの!あの、えっと、一氏くんって好きな人とかおるん?」

「はぁ?小春や!俺は小春一筋やって何回言うたらわかんねん!お前にはおらんのか、好きな人は!」

「えっ、えっと、おるよ、好きな人」

「どんな奴やねん」

「えっと、その人も小春ちゃん好きで、オクラも好きで」

「何!?ソイツも小春のこと好きなんか?ライバルやな…。そんでオクラも好きなんか!それってあれか?この間の調理実習のやつはソイツにやるための練習やったんか?それでオクラ好きな俺に味見か…。なるほどな」

「……どれだけアピールしても、何も気付いてもらえへんくて。すっごい鈍感な人やねん」

「そうか。それは大変やな」

「うん」


ああ、やっぱり一氏くんは私が言ってる人のことが自分だなんて思いもしないんやな。わかってたけど、ここまで言うてもわかってもらえないなら、もう引くしかないな。


「聞いてくれて、ありがと。ホンマにこの間はごめんな。じゃあ」

「そないに落ち込まんといても、頑張ればソイツやってお前のこと好きになってくれるはずや!小春は譲らんけどな!」

「………っ!じゃあ、またね」



やっぱりあなたは気付いてはくれないのですね

(白石…、潔く引くことにするわ)
(雪……)
(じゃあね)



END





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