12 アカン。今度は英語の辞書忘れた。っていうか辞書重すぎるから持ってくんのも持ち帰るのも嫌やねんな。しゃあない。またまゆさんとこに借りに行こ。そう思って立ち上がり教室を出ようとすると、同じクラスの俺のファンとかいう女子が、暗い感じで歩いていた。ま、関係ないしどうでもいいと思って3年の階まで行った。3年8組の教室の後ろのドアから覗いてまゆさんを探すがいなかった。もうすぐ授業始まるのに何でおらんのやろ。 「光くんやないのー!どないしたん?」 「小春先輩……。まゆさん知りません?」 「えっ、まゆちゃん?え、えーと、そや!資料室に資料取りに行かされてんねん」 小春先輩って嘘つくの下手やな。絶対にまゆさんは資料室になんかおらん。あれ?ちょお待って。ユウジ先輩もおらんやん。授業始まる直前まで絶対に小春先輩とおるはずやのに。おかしい。小春先輩のこの動揺も、ユウジ先輩がおらんのも、おかしい。 「じゃあユウジ先輩知りません?」 「ユ、ユウくんなら、確か腹痛で保健室に」 「ふーん。ほな俺、保健室に見舞いに行ってきますわ」 「ああアカーン!ほ、ほらホンマに辛そうやったし、話す気力なんてないと思うし」 「行きませんよ。英語の辞書貸してください」 ユウジ先輩とまゆさんは一緒におる。絶対に。一緒におるのはべつにええけど、なんで授業始まる時間になっても帰って来てへんねん。どういうことや。俺は小春先輩から辞書を受け取って教室に戻った。そしてまゆ先輩にメールを送ったけど、返事はこなかった。 一緒にサボってんのやろか。まゆさんは一番前の席だろうが授業中にメールを返す人だ。電池がないってことはありえない。あの人はかなりの携帯好きや。ユウジ先輩とそないに仲良かったっけ?たまに電話したときとかにユウジ先輩の話は聞いてたけど、別にその時は何とも思わなかった。まゆさんはユウジ先輩のことを気になってるんやろか? 「財前。問3の訳!」 「えーと、彼女が彼を好きなのではなく彼が彼女を好きなのだ」 「そうだ。ここの文だが、」 最悪や。いきなり当てられるとは思わへんかった。ん?いや、ちゃう。まゆさんはユウジ先輩のことをきっと友達ぐらいにしか思ってへん。好きなのはユウジ先輩や。それなら俺に対しての態度がおかしいことにも納得がいく。けど、ユウジ先輩なら好きと思ったらそれこそ真っ直ぐにいきそうやのに、俺にたいして遠慮してるんやろか。それならそれで腹が立つ。 結局そのあとも返事は返ってこなくて、ようやく返事がきたのは6限が始まって少し経ってからだった。 She does not like him but he likes her (先輩とはいえ、) (譲らへんけどな) END |