10 3年になって2ヵ月が経った6月。下駄箱をあけると紙が入っていた。昼休み裏庭に来てください、とのこと。これは告白とかやない。だって明らかに女の子の可愛らしい字やから。光くんと付き合い始めて、こういうことは度々ある。同級生の子や年下の子に呼び出しされ、光くんと別れて、と毎回言われる。こないなことしても光くんに好かれるわけやないのに。私は溜め息を吐くと、朝から溜め息つくなや、と後ろから声がした。 「一氏くん!おはよう」 「おはようさん。朝から溜め息なんてついとったらええことないで」 「今日、朝練は?」 「ない」 「そうなんや」 彼氏がテニス部やのに、朝練がないという情報をクラスメイトの一氏くんから聞くって…。一氏くんは5月の席替えで隣の席になって、いつもおもしろいこと言うて笑わせてくれる優しい人。 私が一氏くんを最初に見たのは、一氏くんのモノマネお笑いライブのときやった。謙也くんに暇なら見たってやと言われ見に行った。一氏くんという存在は、モノマネが上手でおもろい人という噂で聞いたことあったけど、本物を見るのは初めてやった。その頃は、私は光くんと少しうまくいってなくて、ちょうど春休みということもあったのか光くんと会うことが少なくて、部活見に行きたいって言うても、来なくていい、と言われ部活が忙しいからと、遊べない日々が続いていた。光くんってほんまに私のこと好きなんかな?と不安になっていた頃だった。一氏くんのライブはほんまにおもしろくて観客も満員やったし、みんな大爆笑やった。もちろん私も笑ったけど、何故か涙がでてきて泣きながら笑った。 一氏くんは、そのときのことをたぶん覚えてないと思う。 だるい授業を受けてお昼休み。私は呼び出された通り、裏庭に来た。そこにいたのは2年生らしき女の子4人。あーあ。団体でなきゃ言えないんやろか、この子たちは。 「先輩、財前くんと早く別れてください」 「え、っと…それは出来ひんかな」 「正直、先輩が財前くんを大切に思ってるようには思えません」 「………」 「私のほうが財前くんを幸せにできます」 「………」 「財前くんだってあまり会えへん先輩より、同じクラスの私のほうがええと思うはずや」 「………」 「何か言ったらどうなんです?もし別れないならどんな手使ってでも別れさせます。意地でも私が財前くんを手に入れますから」 ああ、どうしよう。この子本気なんや。本気で光くんが好きなんや。 「先輩。痛い目に遭いたくなかったら、別れてください」 「……私、わ「それは間違ってるんとちゃう?」 「ひ、一氏先輩…」 「だいたいな財前を手に入れるとか、財前は物やないねん、人間や。それに財前はこんなせこいことする奴なんか好きにならんと思うで」 「そ、れは」 「コイツだってなぁ、お前らと同じように財前のことが好きやねん。その気持ちに違いはないねん」 「……一氏くん」 「痛い目に遭う?遭わせたければ遭わせればええやん。そんなんなぁ、俺が守ったるっちゅーねん!」 なんで一氏くんはこんなに優しいのだろうか。こんな私をかばってくれるんやろ。2年生の女の子たちは罰が悪そうな顔をしていなくなった。一氏くんは、大丈夫か、と声をかけてくれた。 あなたの背中がとても大きく感じた (初めて光くん以外の人に) (胸がドキっとした) END |