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結城が極道者であることで花月が拒否感を覚えたら、潔く身を引くつもりでいる。母親の元へ行かせた時のようにすっぱりと関係を切って、関わった痕跡も消せるよう手を回すだろう。
では、男同士であることを否定的に感じるようになったら? 男との性行為の経験は消せない。その後の女性との付き合いに花月が消極的になってしまわないか。ではそうならないためには?
だから、結城は花月と性行為をしない。
いつか花月が、絶対に結城との関係を後悔することはないと思えるようになるまで、結城は花月に手を出す気はないのだ。
「俺、色気ないんかな……」
「そんなことないですって」
実際、花月は見た目が良い。花月に対して恋愛感情がない山下から見ても、可愛らしい、綺麗という評価になる。今だって伏し目がちになって際立つ睫毛の長さとか、少し尖らせた唇を全く意識しないと言えば嘘になる。……もちろん山下には風見がいるし、元々ゲイという訳ではないし、何より結城が怖いのでそれを口にはしないが。
「大事にされてるんですよ。よっぽど愛を感じるやないですか」
「……うーん」
「花月さんは……組長と、エッチしたいんですか?」
「そりゃ、恋人なんやし……そういうのは俺として欲しいっていうか。だってあいつも大の男やねんから、性欲くらいあるやん。やのに、俺に全く手出さへんってことは、どっか余所で発散してんのかなーって……思って」
セックスを積極的にしたいという訳ではない。しかし、結城が触れる人間は自分だけであって欲しい。要するに、不安なのだ。このままでは結城を繋ぎとめていられないんじゃないか、と。
「組長は、ご自身の仕事が終わればまっすぐここへお帰りになってますよ。寄り道なんて一切されてません。それは保証します」
「そうですか……」
花月の表情は浮かなかった。それではやはり、自分に魅力が無いのだという結論に達したためだった。
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