「今度一緒に買い物でも行きませんか?」

「あー、まあそれは嬉しいお誘いですけど。さっきの話と全然関係ないやないですか」

「つまりですね、パジャマを買いませんかって話なんすけど。組長はあの牛のパジャマを結構気に入ってらっしゃったみたいやし」


 山下はすぐに事情を察した。なぜか。まず牛のパジャマを選んだのが山下だったから。そして、普通のパジャマを花月が選んだ時も一緒だったからだ。
 そもそも一着目の牛パジャマは夏用で、秋口に冬用の牛パジャマまで用意した山下が、普通のパジャマを選ぶ花月を止めなかった訳ではない。すぐ近くに愛する人がいるのに触れられない辛さを山下も知っているから。さらに言えば、結城は花月と毎晩一緒に就寝している。牛のパジャマくらい着せて、結城の花月に対するあの愛情が情欲に向かわないようにできればと、結城を気遣ってのことだった。


「え。そうなん? ああいうのの方が結城は燃えるってことですか?」

「ええ!? いやいやそうやなくて……可愛らしくて、イチャイチャしたくなるんやないですかっていう意味で」

「そんなんやったらあかんのですってー。俺は、もっと意識して欲しいんです。子供扱いやなくて、恋人扱いされたいの」

「えーっと……」

「結城は俺とエッチしたくないんかな?」


 そんなわけないやろ。と、山下は頭の中で即座に否定した。山下は結城と年が近く、そしてまた、長い片思いを経て結ばれたという共通点もある。長い片思いと言っても山下は3年。それでも十分長いのだが、結城は15年を越える。もちろんその間、他の人間に見向きもしなかったかと言えばそういうわけではなく、性行為の経験は人並みにある訳だが。
 とにかく十数年も想い続けた相手と両思いになれたというのに、毎晩一緒にただ寝ているだけの結城は、どれだけ強固な理性の持ち主なのかと尊敬するほどである。
 山下などは右手のリハビリが進んで満足に動かせる訳ではないが、邪魔ではないという程度になった時点で風見を抱いたような人間だ。退院後一緒に暮らし始めて数週間もすれば悶々としてしまいオーラルセックスに持ち込んだような人間なのだ。

 あんなにも花月を愛おしそうに眺めて、大事に大事に触れる結城が、花月にキス以上のことをしない理由はただ一つ。
 花月がまだ学生だから、だ。

 まだ自身の人生を深く考えず、漠然と捉えているだけであろう花月が、いざ真剣に省みた時……結城との関係をどう感じるだろうか。
 極道であること。男であること。世間一般の常識から外れていることばかりで、後悔はしないだろうか。やっぱり関係を清算したいと考えないだろうか。結城はそれを心配していた。


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