花月が慣れた手つきでコーヒーを淹れる姿を、結城は愛おしげに見つめていた。

 結城が部屋へ帰る頃には夜も深まっていて、花月は大抵夕食も入浴も済ましている。いつでも寝られるという状態で、ソファに腰掛け、読書か勉強のどちらかをしているのが通例だ。
 そこへ結城が帰って来ると、花月は『おかえり』や『お疲れさん』と言った言葉をかける。区切りが良ければすぐに顔を上げるのだが、集中していれば結城に見向きもしない。どちらの場合であっても、結城は花月の隣に腰を降ろして、一日の疲れを癒すのだ。


「はい」


 コトっと結城の前にカップが置かれる。そこで初めて、結城は花月に手を伸ばして抱き上げ、膝に座らせる。可愛くて愛おしくて仕方が無い花月を子供のように抱くと、それに応えるように花月はギュッと抱きついてくる。それが結城にとっての至福の時だった。
 ……のだが、最近は同時に悶々とさせられるようになった。少し前まではパジャマと言えば『牛』。どこで見つけてきたのか、その赤ん坊のような愛らしいパジャマ姿は結城も気に入っていたし、何より不埒な行為に及ばないようストッパーにもなっていた。
 それなのに、最近はごく普通のパジャマに変えてしまったらしい。そう、ごく普通なのだ。普通なのに、花月の色気が増したように見えて、こんな風に真っ正面で向き合って抱きしめ合っているとまるで……『座位』を連想してしまう結城だった。

 そうなるともう駄目で、早々に花月を降ろして風呂へ向かう。就寝する前のキスも軽いもので済ませてさっさと寝てしまうのだった。


「……やっぱりおかしい」

「何がですか?」


 夕食の準備をしていた山下はその手を止めて、思い悩んだ顔をする花月に目を向けた。
 花月も読んでいた本をテーブルに伏せて、聞いてくれと言わんばかりに山下に詰め寄る。


「結城がイチャイチャしてくれへんのですけど、何でやと思います?」

「……それは俺が聞いてええ話やないと思います」

「もしかして冷めたんかな?」

「それはないでしょ! 組長は花月さんにはゲロ甘やないですか」

「でもなー。最近はチューもなおざりやし……全然構ってくれへんねんもん。俺から積極的にいったら、急に風呂とか言うし」

「あー……」


 山下は微妙な表情を浮かべた。まるで、同情しているような顔である。結城の心中を察したのだろう。


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