「じゃあ、どうして拒絶したんですか? 何が嫌だったの?」


 今の体勢とは裏腹に、優しい口調で聞いてくる先生。でも、声には怒りのようなものを感じる。


「先生、俺のことからかって遊んでるんだろ……っ? キスされて、慌てる俺見て笑ってんだ」


 俺のことなんか好きじゃねぇくせに。女がいるくせに、俺にキスなんかすんなよ。


「からかってません。純くん相手に遊ぶ訳がないでしょう」

「じゃあなんでキスなんかすんだよ!」

「好きだからですよ。それ以外に、ありますか」

「嘘付くなよ。ガキだと思って……ふざけんな……!」


 顔を隠していた腕を掴まれる。すごい力で両腕をベッドに押さえ付けられた。先生を睨んだが、無表情の先生が恐くて、少し怯む。


「……ふざけるなは、こっちの台詞だ……。嘘なんかじゃない。……こんな風に伝えるつもりじゃなかったのに」


 辛そうに顔を歪め、先生は俺から離れた。痛む手首をさする。少し赤くなっていた。


「すみません。今日はこれで帰ります。純くんの家庭教師もやめます」

「え……?」

「代わりの教師は僕が責任を持って来週までに見つけますから。今度は、文系の方がいいですよね」


 俺に背を向けて、一方的に話し続ける。その手は帰り支度を整えるために動いていた。


「それじゃ、さようなら」


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