自分の部屋に入り、制服を脱ごうとして、やめた。なんとなく……というか、制服姿が可愛いって言われたから。
 そのままベッドにダイブして、先生のことを考えた。

 俺は先生が好きだ……と思う。先生に髪や頬を触られても嫌じゃないし、むしろ嬉しいし。キスされても嫌じゃないし、むしろ気持ちいいし。
 そういうの他の人とって考えたら、普通に気持ち悪いもん。無理。死んでも拒否。
 それに……、さっきの電話の相手に嫉妬してる。

 『美奈子』って呼んでた。呼び捨てで。それに、敬語じゃなかった。俺は『純くん』で、かしこまった話し方で、……ただの生徒。


「自覚した途端に失恋かよー……」


 ちょっとだけ涙が出そうになったけど、気を取り直す。ふと思い出したのだ。
 今日が俺の誕生日だったってことを。

 誕生日に失恋なんて嫌な感じだけど、お母さんが作ってくれるだろう好物ばっかりのご飯と手作りケーキに胸が躍る。所詮、先生への気持ちなんてそれくらいのもので、失恋なんて大層なものじゃない。


「よーし、忘れちゃおー!」


 ポジティブなのが俺の取り柄だもん。
 俺はうきうきしながら1階に降りた。お母さんがいるキッチンに向かう。


「お母さーん、今日のご飯なに?」


 思わずニヤける俺。先生との食事が無しになったのは残念だけど、よく考えれば結果オーライだった。
 何も考えないで食事をOKしちゃった俺は、お母さんに連絡を入れていなかったのだ。俺のために誕生日だからと腕を振るって作ってくれたご飯が無駄になるところだった。


「今日は純が好きなグラタンとミートスパゲティよ」


 やった……!! 俺は心の中でガッツポーズをした。
 今は午後4時すぎ。あと3時間もすればグラタンにありつけるだろう。あと、今お母さんが作ってるケーキにも!


「楽しみにしてる!!」

「はいはい。今日は瀬尾先生が来られる日でしょ。授業の時にこのあとごはん一緒にどうですかって聞いてみてね。お母さん、たくさん作っておくから」

「分かったー!」


 授業は6時から90分。少しでも早く来てくれたら、早くごはん食べれるのになぁ。
失恋したことなんてコロッと忘れた俺のおなかがグゥと鳴った。


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