先生の手が俺の頬に触れ、先生の顔がゆっくり近づいて来る。俺は目を閉じ、唇を少し開いて、初めて自分からキスされるのを受け入れた。
 そっと唇が触れ、少しずつキスが深くなっていき、舌と舌が触れそうになる寸前……、いつの間にか青に変わっていた信号のせいで、後続車に盛大にクラクションを鳴らされた。


「……残念」


 俺から離れ、そう言いながら笑った先生は、最高にかっこよくて、最高にエロかった。

 しばらく黙ったままだった。俺は自分の気持ちを整理するので精一杯。もしかしたら俺は先生が好きなのかもしれない。それを否定する材料がもう自分の中にはなかった。


「先生、俺……」


 俺が口を開いたその時、先生の携帯が鳴り出した。先生は運転をしながら器用に片手で携帯を開き、ディスプレイを確認した。


「……。ちょっと、すみません」


 車を路肩に停め、先生は電話に出た。


「……もしもし? ……。美奈子、今日はかけてくるなってあれほど……。……わかった。……あぁ、すぐ行く」


 パチンっとまた片手で携帯を閉じた先生は車を発進させた。走ってきた道の方へ方向を変えて。


「すみません。少し用事ができたので、家まで送りますね。食事はまた今度付き合ってください」

「あ、……うん」


 幸い、そこは俺の家から近かった。すぐに家に着き、俺は車を降りた。
 ドアを閉める直前、先生が声をかけてきた。


「純くん!」

「なに?」

「授業までには、また来ます」

「うん、わかった」

「それじゃあ、また」

「うん……」


 俺はドアを閉めた。遠ざかる先生の車を見送っていた。見えなくなるまで。


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