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俺は、この男が嫌いだ。
「この問題ができたらキスしてあげますよ」
「しなくていいよっ」
毎週金曜日にやって来る家庭教師。見た目は物腰が柔らかそうな感じだし、ちゃんと教えるのは上手いし、年下の俺に対してもずっと敬語で話すような優しい人だけど、俺はこの男が嫌いだ。
「素直じゃないですね。……いや、この頬はとっても素直だ。真っ赤で、可愛い」
「うぅ……!」
こうやっていつも俺を苛めてくる。
「正解です。よく出来ました。じゃあ、ご褒美」
「ん……っ」
毎週毎週、勉強ができたご褒美だと言ってキスをされる。
最初の頃は、頭を撫でられるだけだった。照れくさかったけど、普通に嬉しかった。
1ヶ月くらい経った頃、ホッペに軽くキスをされた。状況を把握できずにポカーンとしていると、口にキスをされた。
悔しいけど、……気持ちよかった。
「んん……!」
正直、今も気持ちよかったりする。でも……。
「すごく可愛い」
「かっ……わいくねぇ!」
可愛いって言われるのがむかつく。男が男に可愛いって言われても嬉しくないんだっての。
「すごく可愛いですよ」
「だからっ、そんなん言われても全く嬉しくないっつの!」
「どうして?」
「俺は男だぞ。カッコイイって言われたいに決まってんじゃん」
「うーん……」
笑顔で俺を眺めるこの男は、数ヶ月前から俺の家庭教師になった瀬尾直也先生だ。
「残念だけど、格好良くはないかなぁ」
そして、はっきりとカッコよくないって言われた俺は、藤谷純。高3。ちなみに背が低い方……かもしれないけど認めない。弟よりはでかいし。
「いい笑顔で言ってんじゃねぇ!」
「本当のことですから」
「くそぅ……」
「ほらまたそんなに可愛い顔をする。僕を夢中にさせてどうしたいの?」
「どうもしねぇー!!」
「ふふ、可愛いなぁ」
「だからぁ!」
瀬尾先生はずっとこの調子。
俺を苛めてさぞ楽しいだろうさ。でも、俺は負けねぇ!
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