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「さてとっ。帰るぞ、タロ」

「はーい」


 さっと立ち上がったリンに続いて、狼も立ち上がった。その2人を見上げ清次は口を開いた。


「若、長ぇ話に付き合わせちまって……」

「いいもん聞けた。……先に帰って、家で待ってるぞ」


 清次に背を向けたまま、狼はそう言い残し、歩き出した。リンもそれに続く。


「……兄貴、若がでかくなっちまったぜぃ。ついこないだまで、手がかかると思ってたってぇのによぉ。……寂しいねぇ」


 残された清次も立ち上がり、少し離れた小さな墓の前に立った。


「おぅ。今日はお前の好きな花、持って来れなかったぜ。花屋に寄るのが照れ臭くてよぉ。来月は、いつもの倍持って来るからよ」


 ポケットからビスケットを取り出して、墓前に供える。


「そういやぁ、もうこんなもんじゃ喜ばねぇのかもしんねぇなぁ。いつまでも子供じゃねぇんだし……」


 ビスケットが入っていた包装をポケットに仕舞い、煙草をくわえて火を付けた。一息煙を吐き出して、煙草をビスケットの隣に置く。


「もう煙草ぐれぇ覚える年だぜぃ。来月は酒だな。いい酒持って来てやらぁ。……じゃあな」


 清次は立ち上がり、また煙草に火を付ける。くわえ煙草で歩き出す清次に、真冬の冷たい向かい風が通り抜けた。


「……チッ、煙が目に染みやがるぜぃ……!」


end.
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