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『気に入った。俺の弟になれ』
そう言って、俺なんかと肩を組んでくれやした。他の組員は『若』と呼ぶ中、俺だけには『兄』と呼ばせてくれた。兄貴のお心遣いで、嫁とガキの葬儀や墓まで面倒見てくれやした。
嬉しかった。兄貴に出会えたことに感謝しやした。全てを失った俺にまた家族を与えてくれたんでさぁ。
「そういえば俺、清次が親父を兄貴って呼んでるから家族なんだと思ってたな」
「若、組のもんは皆、家族も同然ですぜぃ」
「そうだぞ」
「うん、分かってる。今はね」
俺ぁ、すぐ野田組に入って若の世話役になりやした。兄貴から直々に息子を頼むってんで、浮かれてたのを覚えてまさぁ。
これが、ヤンチャな子でねぇ。まだ3つか4つの頃は手を焼きやした。でも、ガキを持てたみてぇで楽しかったですよ。
それから10年くらい経って、兄貴が交通事故に遭ったと連絡が入りやした。すぐに、学校にいる若を迎えに行って、病院に。着いた時にはすでに、同乗していた兄貴の奥さん……若のお母上は、息を引き取っておられやした。
兄貴も、それを追うように……。
「若、覚えておられますかぃ?」
「当たり前だろ。まだ、たった4年前だ」
「若がお母上の元におられた間に、俺ぁ兄貴から言われたんでさぁ。『俺の大事な息子だ。俺の代わりに親父になってやってくれ』ってね。……まぁ、俺が兄貴の代わりになんざ、なれるわけはないんですがねぃ」
「親父が……」
「若は荒れ放題。龍坊ちゃんはまだ乳飲み子。なんつーもんを残して、2人して逝っちまったんだとねぇ……組長とボヤいてたのがもう4年前かぁ。……早いもんでぃ」
野田家先祖代々の墓前で、3人は揃って手を合わせた。
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