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もう10年以上も前のことでさぁ。
俺ぁまだ中途半端なチンピラで、悪いことにも中途半端に首を突っ込んではケガをしての繰り返し。
……カッコ悪ぃ男でね、稼ぎ口はもっぱらカツアゲか、本職の使いっ走りの汚ぇもんだった。
そんな俺にも、大事な女ってのはいたんでさぁ。
俺にはもったいねぇくらい、いい女でしてね……俺にとっちゃあ太陽みたいな存在でした。
……クサいですかぃ? でも、本当にそうだったんでぃ。そばにいるだけで、心が満たされる気がしてたもんでさぁ。
『妊娠!?』
『……うん』
『よっしゃあぁぁ!! でかしたぜぃ! すぐに仕事やめろ。身体を大事にしねぇとな! 心配すんな、俺が稼いで食わせてやる』
『本当?』
『たりめーよぉ。汚ぇことからは足洗う。ちゃんと就職して、おめぇに楽させてやるからな!』
『ありがとう、清ちゃん』
『そうと決まりゃあ、早速名前を決めねーとなぁ。俺ぁ、清次の『次』って字が大っ嫌いなんでぇ。だから、俺の息子にゃあ絶対『一』の字を付けてやりてぇんだ』
『ふふ、女の子だったらどうするの?』
『簡単でぇ。『一子』だ』
我ながら、古くせぇ名前を考えたもんでさぁ。でもね……あいつぁ、それを聞いて笑ってくれた。いい名前だって言ってくれたんでぇ。
安い安いシルバーの指輪を買って、向こうの親の反対を押しきって籍を入れやした。
でも結局、俺ぁガキの顔を見れなかった。産まれてくる前に、死んだんでさぁ。母親と一緒にね。
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