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「……よし! タロ、行くぞっ」
「うんっ」
出掛ける清次の後ろをついて行くリンと狼。
狼の目立ちすぎる逆立った赤髪は今日はリンによって禁止された。そのため逆立てず下ろしたままニットキャップに収納している。リンはファーの付いたジャンパーのフードを被っている。
ずんずんと歩いていく清次。それを少し離れたところから自然に尾ける2人。
しばらくすると、清次がバス停で立ち止まった。リンは2メートル近い長身の狼のことを、狼はまるでロシア人の少女のように可愛らしいリンのことを、とても目立つ人間だと理解していた。こんな人間を連れて、一緒にバスに乗るわけにはいかないと思った。
「しゃーねぇ。タクシー乗るか」
すぐに来たタクシーを捕まえて乗り込んだ。運転手には少し待つように伝える。
「ちょっと待ってね。次のバスが来たら、それについてって欲しいんだけど、いい?」
「……かしこまりました」
面倒くさい! と瞬時に思った運転手であったが、ミラーに映る可愛らしい少年の横で自分を睨んでいる少年の顔が恐ろしすぎて断れなかった。
トレードマークの赤髪は見えないが、顔をよく見ればこの辺りでは有名な野田狼ではないか。そうと分かっていれば絶対に乗せなかったのに……と悔やむ運転手であった。
「あっ! 乗った! あのバス絶対見失わないでね。すぐ後ろに付けてもいいからさ」
リンの言葉に頷いて、タクシーを発車させる運転手。
なんとかバスを追って走行することができたタクシー。30分ほど経過した頃に停まったバス停で清次が降りた姿を認める。
「降りたっ! 運転手さんいくらっ?」
「えーっと……」
「あーもーいいや! 1万あれば足りるよな!? 釣り取っといて。行くぞ、タロっ!」
「うんっ」
「運転手さん、ありがとねー!」
素早くタクシーを降りた2人。また怪しまれない程度の距離を保ちつつ、清次を徒歩で尾行するのであった。
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