野田組本家の風呂は2つある。手入れの行き届いた檜風呂と、石造りの露天風呂。2つとも、狼の祖父である五代目組長のただの趣味だ。

 リンと狼は広い脱衣場で裸に腰タオルの格好になった。そして、まず向かったのは銭湯のようにシャワーがいくつもある場所。このスペースは、冬に外で身体を洗う時間が苦痛過ぎる! という組員の意見により作られたものである。

 自身の身体を洗い終わった2人は、露天風呂へと出た。


「ふぃ〜。やっぱタロん家の風呂はいいなぁ、おい」

「これの維持費すごいらしいけどね」

「だろうな。……温泉が湧いてる訳でもねえのに掛け流しだもんな」

「でも俺、実際いくらかかってんのか知らない。清次のことも知らないし、ここに住んでる奴らですら顔と名前一致しない。……こんなんじゃ、ダメだな」


 清次のことを何も知らなかったと気付いてから、組のことも全然知らないことに気付いた狼。将来は六代目になるであろう自分が、少し情けなくなった。


「ま、これから知りゃあいいだけの話じゃねえの? それに、たぶん組長はあえてタロに教えてないんだと思うぜ」

「そう、なのかな?」

「こんだけデケェ組だしよ、本気で継ぐって固い意志がねぇ奴に組任せらんねぇよ。その点、お前はダメダメだな。俺のそばにいれないなら継がないとか言うし」

「今の俺にとっては、組なんかよりリンといる方が大事なんだもん」

「どれだけ大切に思っても、一生そばにいたいと願っても……叶わないこともある。1人で立ってられる人間になれよ」


 狼に対して言いながら、自身にも言い聞かせた。誰に依存することなく、1人で強く生きたいと願うレオン。しかし、過去に依存し、傷付け、大切な人を失ってきた。そして今……狼に依存する自身がいる。
 どうして、そばにいてくれる人を求めてしまうのだろう。誰かに愛されたいという気持ちは、なぜ消えないのだろう。結局は、1人になると分かっているのに。


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