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外泊届を寮長に提出し、リンの姿で狼と一緒に寮を出た。いつものように狼のバイクの後ろに乗って、狼の実家である野田組本家へと向かった。
「おかえんなせぇ。若」
大勢の組員と共に、狼とリンを迎えたこの妙な江戸っ子口調の人物こそが、噂の田辺清次である。
「おう」
「お世話になりまーす」
「今日はリンさんが来られるってんで、たくさん夕食ご用意しやした」
「マジすか! 清次さん、ありがとっ!」
「じゃあ早速、行きやしょう。組長がお待ちでさぁ」
清次の後ろをついて行くリンと狼。2人の視線は清次の左手に注がれていた。鈍く光る細いシルバーの指輪が、確かに薬指にあった。
「ほら、してるだろ?」
「だね。初めて知った」
組長と3人で談笑しながら夕食を済ませて、狼の私室に用意された布団に寝転がるリン。
リンが狼の実家に泊まるのは珍しいことではない。狼と出会い、OVERFLOWを作って解散するまでの間……つまり、何でも屋としてOVERFLOWの総長を演じていた期間は、よく泊まっていた。
そして、いつも清次がいらぬ気を使って、狼の部屋にリンの分の布団を敷くのが通例であった。
「明日は清次さんを徹底マークだぞ。そんで自由に動けるように話しかけたり、何か頼んだりはすんなよ?」
「わかってる。なんかさ、ワクワクすんねっ」
「だな。よっし! 風呂入ろうぜ!」
「うんっ」
リンと狼が一緒に入浴するのも、通例である。
狼に自身の本来の姿を見せられないし、見られたくはないのだが、地毛を特殊なヘアスプレーを使って染めているため、特に問題はない。専用のシャンプーを使わなければ色が落ちることはないのだ。どうしても多少は落ちてしまうが、元の色が色なだけにあまり目立たないのである。
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