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その晩、結城が帰ってからの会話に花月は酷くデジャヴを覚えた。
「そろそろお前の父親の三回忌やろ。どないするんや」
「親戚のおっさんが色々手配してくれるらしい。葬式ん時もそうやったけどな。……結城は、来てくれるんか?」
「行かれへん」
ああ、この会話は完全に、今朝の夢と同じだと気が付いた。
「忙しいんか?」
「時間が作れん訳やない。そんなんは関係なしにそもそも行く気が無い。俺が行ける訳ないやろ、普通に考えろ」
「なんで、何でそうなんねん。俺が来てくれって言うてんのに」
「俺が極道もんで、お前の周りはそうやない。せやからお前の父親の三回忌なんぞに俺は顔を出せへん。そんだけや。もちろん香典は用意する」
「お前がヤクザかどうかなんか関係ないんじゃ! 俺のそばにおってくれって言うとるだけやろ」
「……アホ、無理や。またどっかで時間作って二人で墓参りに行くぞ。そんでええやろ」
このあと花月は言うのだ。『いらんわ、ボケ!』と。そして外へ飛び出し、居眠り運転の車に轢かれる。
つい口から出そうになった言葉を寸前で飲み込んだ。
「……約束やぞ」
結城は正直驚いた。花月の性格ならば確実にここで引くことはない。キレて罵声を飛ばし、この場から離れるくらいはするだろうと思っていたからだ。
親戚とは上手くいっていないことくらい想像が付く。大きな借金を抱えていた父親は親戚から疎ましく思われていただろうし、加えて父子家庭だった。その環境で育った花月を快く思う親戚はそういないだろう。
きっと花月は、親戚などよりも組員の方が家族に近い存在なのだろうと、同じ思いの結城は感じていた。
「約束や」
結城に促されて腕の中に収まった。どこかで救急車のサイレンが鳴るのが聞こえる。
花月は知っている。その救急車で運ばれるのは一人。居眠り運転で事故を起こした運転手のみ。そして、運転手は検査の結果、無傷だと。
ふ、と鼻から息を洩らすように笑った花月の頬に、結城が軽くキスをした。
end.
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