次に意識が戻った時、そこは結城の腕の中だった。いつもの部屋、いつものベッド、いつもの体勢で抱き締められている。混乱したのは一瞬で、すぐに安心した。悪い夢を見ただけだ。ああ、よかった……と。
 ベッドから抜け出てコーヒーを淹れる。昨日まで当たり前にしていたことが妙に久し振りで、その当たり前を幸せに感じる。のそのそと起きてくる結城におはようと声を掛ける。ご機嫌な様子の花月を少し不思議がりながらもおはようと返してくれる。いつもの朝、いつもの二人。

 結城が出かけると同時に現れる山下の顔を見ると涙が出そうになった。なぜか様子のおかしい花月に首を傾げながらも山下はいつも通り朝食を作り始める。


「山下さん! 今日は俺めっちゃ食べますよ!」


 やたらと太らせたがる山下の喜びそうなことを口にする。とにかく山下に感謝の気持ちを伝えたかった。夢の中の出来事だったのだから、実際には山下は何もしていないのだが。
 しかし、現実に起きたとしても、山下なら同じことをしてくれるだろうという確信がある。


「えらいご機嫌ですね。何かええことあったんですか?」

「ひどい夢見たんですよ。当たり前やと思ってた日常がめっちゃ幸せやって感動するくらいツライ夢やって。山下さんとこんな風に普通に喋れるだけで嬉しいんです」

「どんな悪夢やったんですか、やばいな。せやけど花月さんらしいですね。あー夢でよかった、で終わらんと、日常大事にしよって思ってはるんでしょ? 例えばそれが今日一日だけやったとしてもめっちゃ有意義な気ぃしますね」


 山下の言う通りかもしれない。また眠って目が覚めて、なんて事ない日常が当たり前に続く。花月がこんなに日常を愛おしく思えるのは今だけなのかもしれない。それもまた、自分らしいと花月は自嘲気味に笑った。


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