翌日は花月の友人である真守と、結城の部下であり真守の恋人の鳴海の二人が見舞いに来てくれた。昨日結城が帰ったあとで気付いたことだが、どうやら山下は24時間体制で病院にいてくれているらしい。何度か廊下にいる山下を見かけた。


「気になってるやろうから言うとくぞ。聞いてんのか分からんけどな」


 花月の顔を見るなり、そう口にする真守。


「お前のことを轢きやがった運転手な、無傷やて。良かったんか悪かったんか、怪我人はお前だけや。鳴海さんが慰謝料諸々踏んだ食ってくれる言うてるから、お前はしっかり怪我治せよ」

「正確には私がじゃなくて、うちの弁護士連中が、ですけどね」


 実はその二点は気になっていたので、少しホッとした。色々世話になっているのに、こんな仰々しく入院するなんてまた結城にお金を使わせてしまうと思っていた。


「あとはまあ大学やけど。もう卒論だけやろ。ゼミの教授には上手いこと言うといたで。卒論出せば単位はくれるらしいから、目ぇ覚めたら必死で書け」

「それに留年しても構わないと結城も言っていましたよ。貴方の目が覚めるなら何でもいいと」

「医者が言うにはな、外傷は割とすぐに治るって話やぞ。腿の骨折以外は打ち身と切り傷だけらしい。ただ頭をしこたま打ってるから、目が覚めんのはいつになるかは分からんってよ。ほんでも今日中には一般の病室に移れるらしいから、そっからは山下さんがずっと一緒におるから安心せえよ」

「結城が屍みたいになってますから、早く起きていただけると助かります。さすがに、今の結城をからかって遊べるほど鬼じゃありませんし、貴方がそばにいない結城は、つまりませんから」

「……ほな、俺ら帰るわな」


 真守達が出て行って、しばらくすると花月の身体が病室に移された。一人部屋に、すでに用意されている簡易ベッド。山下がずっと一緒にいてくれるというのは本当らしい。風見との同棲生活が幸せすぎてやばい、といつも花月に漏らしている山下がだ。いいのだろうかと心配になる。それでも、嬉しいと思ってしまうのは止められなかった。


「ほんまは、組長におって欲しいですよね。組長も、花月さんのそばにおりたいって思っておられるでしょうけど……俺なんかがおっても代わりにならんって分かってますけど、一緒におりますからね。大丈夫ですよ。絶対、治ります。目が覚めたら、また花月さんの好物作ります。めっちゃいっぱい、作ります。こんな点滴なんかやったら、また、花月さん痩せてしまうから……食べな、あきませんからね。お腹いっぱいですって言われても、許しませんからね」


 途中から明らかに涙声になる山下が肩を震わせながら花月に声を掛ける。山下は自ら、花月のそばにいることを志願したのだろう。立場上自分の自由がきかない結城の代わりに、代わりになんてなれないと自覚しながら、きっと山下自身も花月を心配して。
 花月の世話をするようになって、丸二年。山下は痩せすぎの花月を太らせるのだと使命感に燃えていた。二年という年月をかけて増やした5キロという重みは、二人の信頼でもある。花月が危険な目に遭った時には、身を挺して庇った。右手に負った重傷は完全には治らなかったけれど、山下にとっては悔恨と誇りの象徴だ。
 どんな些細なことでも、花月の異変に真っ先に気付くのは山下だった。体調不良も気落ちも山下に隠しておくことはできなかった。互いに最愛の人がいるのは違いないが、互いに特別な人であることは確かで。その互いの最愛ですらもそれは認めている。まるで仲の良い兄弟のような、親子のような、微笑ましい関係性が二人の間には築かれていた。


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