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「花月。俺はお前を手放す気はない」
「うん。それでええよ」
「けどな、お前が俺に愛想尽かしたら、いつでも出てってええぞ」
「何やねんそれ」
花月は前方から目を離さないが、その表情は明らかにムッとしたものになる。そりゃ、いつかはそんなこともあるかもしれない。でも、今、この時点での花月の気持ちまで軽く見られているような気がしたのだ。
「ま、そんなことにならんようにするけどな。俺よりええ男なんかそうそうおらんしな」
「何やねん、それ。アホやろ」
思わず笑う花月。面白くてではない。安心したからだ。
「俺なりに、お前を幸せにする。だからお前は、俺の横で笑っとけ」
「おう。任せとけ」
10時10分。お手本のように両手でハンドルを持つ花月の手を握ることは出来ない。
たった十数分、二人の住む部屋に帰るまでの間だけのことなのに、ああ、こんなことなら自分で運転をすればよかったと結城は思った。
「……帰ったら覚えとけよ」
「は? 俺なんもしてへんっちゅうねん」
end.
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