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「じゃあ、お邪魔しました」
玄関、と言うには豪奢な空間で、母親に挨拶をした。一歩外に出ると、敷地の外に花月の車が見える。使用人がいるってすごいと思いながら、車へ向かう。
そして気付く。車の向こうにいる人影。それはどう見ても、結城だった。自然と小走りになる足と緩む表情筋。毎日顔を合わせているのに、やっぱり会えると嬉しいのだ。
「結城っ」
「おう。お前の運転が心配で来てもうたわ」
「大丈夫やって言うとんのに。ほんま心配性やな」
憎まれ口を叩いても、嬉しそうな顔をしては説得力がない。知らない内に結城を喜ばせるのが花月だ。
「帰りは結城が運転してくれるん?」
「アホ。そんなことしたら練習にならんやろ。運転すんのはお前や」
「なーんや、教官みたいに横でギャーギャー言わんとってや」
「それはお前の運転次第やな」
それぞれ車に乗り込む。サッとシートベルトを締める結城が面白い。そこは真面目なのかと花月は内心笑った。
車を発進させるまで、お互い何も喋らなかった。花月の方は人を乗せての走行にそれなりに緊張していたので、喋ろうという気持ちにはならなかったのだが。
「……母親、どうやった?」
「ああ、うん。もうお腹おっきかったで。男の子やって」
「そうか」
「結城とのことも、言うた。付き合っとるって」
「俺みたいなもんとで、反対されたやろ。極道以前に男やからどっちにしろ反対されるやろうけどな」
「反対は……されへんかったんやないかな。ただ、俺の覚悟が甘いってことを言われただけや」
「何の覚悟や」
「色々と」
結城に言うことちゃうし。と、続けた花月の横顔をじっと見つめても、結城にはどんな覚悟なのか察することはできない。
だが、経験上推測することはできる。きっと、結城が花月にとって都合の悪いことをした場合のことを言っているのだろう。
いつか、花月が結城の元から去ることにしても、それを引き止める気はない。絶対にないと言い切れるが、花月に興味がなくなったとしても、ただ放り出すだけで終わるだろう。まあそれでも、花月の方は金を返すと言ってくるだろうとは思うが。
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