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「……結城さんと、恋人なん?」
ドクン、と心臓が跳ねた。
後ろめたい。そう感じた自分が嫌だった。
「…………」
母親に気付かれて当然だ。なのに、今更、こんな風に焦ってしまう。結城に申し訳ない。はっきり、堂々と肯定できない自分が恥ずかしかった。
「人に言えへんようなことは、やめときなさい」
よく父親に言われた言葉。ああ、二人は本当に好き合っていたんだなと、そんなことを思った。
「……俺は、結城と付き合うてます」
「好きで、付き合ってるんやな?」
「はい」
「借金のせいで、関係を強要されとるんやったら、私が全額返済することもできるんやで? 頼ってくれたらええんやで?」
「結城からお金を返すように言われたことはありません。ほんまに、大切にしてくれてると思います」
沈黙が続いた。母親の目を見る勇気がなくて、花月はずっと俯いていた。
しばらくして、母親が口を開いた。
「……分かった。でもな、今はそれでよくても、いつかは困ることになるかもしれへん。その時は、絶対に私に言うんやで。今まで何にもしてあげれへんかった分、ずっと苦労させてしまってた分、これからは頼って欲しい。辛くなった時は帰って来なさいね。何をしてでも守るからね」
『いつかは困ることになるかも』
今は大切にしてくれていても、いつか、結城が花月を好きではなくなるかもしれないという不安はもちろんある。逆に、花月自身が結城のことを好きで居続けられるかだって分からない。
そうなった時、そばから離れるという選択をした時、結城は花月に返済を要求するのだろうか。いや、ずっとそばにいられたとしても、返済はするべきだと花月は思う。たとえ結城が必要ないと言ってくれたとしても、返さなければ。一生かかってでも。
「お金のことは、自分で何とかします」
「花月、でも……」
「でも。辛いことがあった時は、甘えさせて下さい」
花月の人生に、母親という存在はなかった。父親が家にいない時、どうしようもないくらいの寂しさに襲われることもあった。そんな時、母親がいてくれたらと何度も何度も思った。でも、口には出来なかった。
「俺は、ヤクザと関わりを持ってるから、この家の人達に関わると迷惑がかかると思ってました。というか、今もその考えは変わってないですけど……お母さんって、お母さんなんやなって、思いました」
「いつでも、何があっても、花月の味方やで。お母さんは、お母さんやから」
「……はいっ!」
お母さん、って存在がこんなに心強いなんて。花月の胸にあたたかいものが広がった。
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