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「……親父に?」
「うん。『男にそない可愛らしい名前付けてどないすんねん』って。……死産やったて聞かされて、花月の顔をずーっと見られんかったけど、花月は、花月やね。願った通りの優しい子に育ってくれた。あの人にも、感謝しとる」
「『人に親切にしろ』って言われて育てられましたから。親父は、友達の連帯保証人になって借金抱えてたし、最期は他人の子ども助けて自分は死んで……ホンマ、ええとこなしやで」
「…………」
「損ばっかして……アホや。就職したらラクさせたろ思とったのに、さっさと死にやがって。……何もしてやれんかった」
気を抜くと、泣いてしまいそうになる。亡くなってから、こんな風に父親の話をすることは無かったから。
「……花月。借金、て何のこと?」
「…………あ」
「あの人、借金があったん? それ返済はどうしたん? まさか! あの結城ってヤクザが取り立てに来て弱み握られたんと違うん!」
しまったと思った。結城のことを少なからず憎らしく思っている母親には父親の借金のことを秘密にしておくつもりでいたのに。
「それはちゃいます! 取り立てに来たんはタチの悪いヤクザで……結城は借金を肩代わりして、俺を助けてくれたんです」
「そんなん相手がヤクザから違うヤクザに変わっただけやないの。何にも助かってないわ」
「確かに俺も最初はそう思ってました。でも結城はちゃうんです。だって結城は、俺をあなたに会わせてくれた。俺をここに行かせて、縁を切ろうとしてくれたんです。……ずっと結城を信じられへんかった。せやけど今は違います。今は、結城を心から信じられる。世間様から見たら最悪な人間でも、俺にとっては、大事な人です」
どれだけ言葉を尽くしても、結城を大切に想う気持ちを理解してもらえるとは思っていない。結城という男は、法に触れることをしている。それは分かっている。
それでも、花月にとっては、一番に想う人間で。花月自身を一番に想ってくれる人間で。大切に、守ってくれる大好きな人だ。
母親にどう言われようと結城のそばから離れる気はない。ただ、脅されているからそばにいるだなんて、そんな風にだけは思われたくなかった。
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