２
母親の屋敷に到着すると、使用人がやって来て車の駐車をやっておくという旨をとんでもなく丁寧な言葉で言われた。ホテルみたいやー、なんて花月は思いながら、携帯を取り出した。
「着いたでー」
かけた先は結城の携帯。一人で運転をする花月を心配して、着いたら必ず電話をするようにと言われていたのだった。
対する結城はフロントの会議中。しかしながらそれを全く気にもせず、堂々と電話を取った。
「何も問題なかったか？ どっかに当てたりしてへんな？」
「大丈夫やって。車も俺も無傷で到着したから。ほな、仕事頑張ってな！」
「お前、帰る時また連絡せえよ」
「分かっとるって。ほんじゃなー」
そんな心配せんでも。子供やないんやから。そんな風に悪態をつきながらも、内心大切にされて嬉しいと思う花月。こういう結城の優しさが花月は大好きだった。
「花月、久しぶりやね」
「ご無沙汰してます。もうお腹大きいんですね」
「花月に知らせるのは安定期に入ってからって思とったからね。ほらほら上がって。お菓子用意しとるから」
「お邪魔します」
「お邪魔します？」
「……えっと。た、ただいま？」
「はい。おかえり」
優しく微笑む母親に、花月はほっこりした。一緒に住むことは選ばなかったけれど、母親に好意を持っていないわけではない。
幼い頃から想像していた綺麗で、優しくて、あたたかいお母さん。理想そのものの母親にもちろん好意は持っている。しかし、『母と子』という関係を築くことが難しい。ただそれだけなのだ。
「名前ももう決めとるんよ」
「へえ！ 聞きたいです」
「美しいに晴れで、美晴(ミハル)。花月には『月』っていう文字が入っとるから、この子には『太陽』に関係のある漢字を使いたかったんよ」
「美晴か。女の子ですか？」
「ううん。男の子やで」
「それはまた、随分可愛らしい名前にしたんですね」
「……ふふ。花月がお腹におる時に、同じこと言われたわ」
懐かしむように微笑みながら、お腹を撫でる姿に鼻がツンとした。俺がお腹におった時も、そんな風に優しく撫でてくれたん？ そんな風に聞いてみたくなった。
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