11(完)




「あれ? てっきりブチギレると思ってたのに。案外普通じゃね、巽さん」


 鈴音が飄々と言ってのけた。その言葉に風見と山下の顔色がザーッと無くなったみたいに青白くなる。


「狼から電話あったわ。まあ、今回は怒鳴り散らすのはやめといたろうと思てな。でも許した訳ちゃうからあとで覚えとけよ」


 花月の顔が引き攣る。ほんまに隠し果せると思とったんやろうなぁ。俺かって鳴海が恋人との約束どうこう言うのを聞いてなかったら気付かんかったやろうからな。気付いてしまったからには許すつもりはない。でも、狼のおかげで浮気とかそういう心配は無いと分かったから、怒鳴る気は失せた。


「なんだよ、タロの奴言っちまったのかよー。言うなっつったのに。あのバカ犬!」

「狼が電話してきてなかったら、お前のメシも用意してへんし、こいつを搾り上げるためにさっさと追い返しとったやろうけどな」

「……バカ犬もたまには奴立つじゃねーか」


 いそいそとダイニングテーブルに腰を下ろす鈴音を横目に、花月の腰に腕を回す。ギギギ、と音が鳴りそうなほど不自然な動きで俺の顔を見た花月は、後ろめたさ半分、恥ずかしさ半分みたいな複雑な顔をしとる。


「……ろ、狼さんに、どこまで聞いたん?」

「大したことは聞いてへん。とりあえずお前もメシ食うて風呂入っとけ。俺は一回会社に戻る。帰ったら話があるから寝とっても叩き起こすぞ」

「……うん。わかった」


 花月の目に後ろめたさはあっても、後悔の色は無い。花月は俺に嘘を吐いたことは謝るやろうが、じじいに何て言うたかは言わへんやろうと思った。
 いつまで経っても、俺のもんやと安心させてくれることは無い。いつの日か俺のそばから簡単に離れて行きそうな不安が常にある。それが恐くて、いつも監視できるような異常な状態に花月を置いても、こいつはあっさりとすり抜けていく。

 花月から向けられる感情に自信が持てへんのは、俺のこれまでの人生に誇れるものが無いのはもちろん、これからの人生を変える気も無いから。俺が歩む道は一本と揺るぎない。たとえそれで花月が離れていくことになっても仕方がない。そんな最低のことを考えとるから。
 花月のことを思う気持ちは狂ったように激しいくせに、自分の生き方を変える気は無い。なんちゅう最低最悪な男やろうと俺自身が一番に思う。

 俺みたいな奴はお前に逃げられても文句は言えんけど、逃げ道が見えへんくらいに大事にするから、出来るだけ長く、俺に騙されといてくれ。


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