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「おい、勿体つけんとさっさと言えや。何があった」
「俺が蹴った見合い話、結局お前んとこにお鉢が回ったっつーのを清次から聞いて、鈴音が気にしてたんだ。そしたらチビから鈴音に連絡が入って、見合いの様子が知りたいって言ったんだと。んで鈴音が色々手を回して、見合いの席に連れてった」
「連れてった? どういう意味や。カメラや盗聴器でも仕込んどったか。……まさかあのネクタイピンか。そういや俺がほかしたんを清次さんがわざわざ拾うてたな」
「盗聴器を仕込んでたかどうかなんざ俺は知らねえよ。そうじゃなくて、実際に見に行ったんだ。鈴音とチビの二人で」
「アホか、あいつら二人でおったら俺が気付かんわけ……」
いや。あれか。あの、花月によう似た女……あれがほんまに花月やったんか。男やのに『可愛い』って言われんのが実はコンプレックスなあいつが、わざわざ関東まで行って、女の格好までするほど、俺の見合いなんかが気になったんか。
「お前の見合いが終わった後、うちに泊まった。本家になんか行きたくねえっつってすげー嫌がってたけど、最終的にはじいさんに啖呵切ってたぜ」
「ああ? じじいに何言うてん」
ヤクザが恐い言うて、未だにうちのもんにも顔を見せたがらへん花月が、じじいに啖呵切った? 老けても眼力だけは衰えんと野生動物みたいなままのじじいに? うちの組員ですらビビる花月なんか、じじいに睨まれたら漏らすレベルちゃうんか。
「よっぽどお前に惚れてんだな、チビも。俺はてっきり巽の方がベタ惚れなんだと思ってたぜ」
「はあ?」
「ま、何にせよ、チビのことは許してやれ。お前が好きだってだけであそこまで頑張ったんだからよ。じゃあな。あ、そうだ。鈴音のメシ、用意しろよ」
自分の言いたいことだけ言うて切りやがった。何やねん、アホか。俺の方がベタ惚れとかその通りやろうが。いっつも俺ばっかり好きで、嫉妬して、あいつはあっさり……でもないってことか。
俺の見合いが気になって、女の格好なんかして。ヤクザが恐いくせに、じじいに啖呵まで。
「山下」
「はいっ!」
「あと三時間くらいで花月が帰る。鈴音も一緒やからアホほどメシ用意しとけ」
「はい!」
よかったですね、と半笑いのクソ腹立つ顔をして言う鳴海を蹴り飛ばしてやろうかと思ったけど、舌打ちだけで済ますくらいには、俺の機嫌は直った。
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