「……では、打つ手はありませんね。そのうち花月さんの方から連絡があるか、ひょっこり帰って来るでしょう」


 あっさりとした鳴海の言い草には若干腹が立つけど、確かに言う通り、打つ手はない。
 手当たり次第に探すという手があるにはあるけど、そもそも駅に送らせたってことは近くにはおらんってことやろう。徒労にしかならん。


「昨晩はほとんどお休みになられていないでしょうし、少し仮眠でも取られたら如何ですか? どうせ仕事も手に付かないようですし」

「アホか。寝れるわけないやろ」


 こんなイラついた気分でじっとしとけるか。ほんまやったら今すぐにでも、あいつを捕まえに行きたいのに。
 苛立った気分がモロに出とるんやろう。山下の顔色がどんどんと悪くなっていく。一回花月のことを見失った時には、本気で殺してやろうと思ったし、そのつもりで長ドスを手にした。それが確か一年ほど前か。まあ、あんな顔にもなるやろうし、風見のピリピリした空気も分かる。分かるけど、今はそれすらもイラつく。
 山下も風見もここにおってもしゃあないねんから出て行けと言えばそれで済むのに、ああくそ、めんどい。
 何か食べられては? 仮眠を取った方がよろしいかと。とか何とか言うて、俺の身体を慮っとるような振りをして、俺の様子を見て楽しんどる鳴海の存在が何よりもいっちゃん鬱陶しい。

 イライラしながら、それでも今朝の経済新聞を読んどると携帯が鳴った。花月か、と素早く手に取ったけど相手は狼。何の用やねんと思いながら、通話ボタンを押す。


「よお。今から鈴音がお前んとこのチビをそっちに送りに行くから、何かメシでも用意してやってくれ」

「鈴音が花月を? 何かあったんか」

「まあ、なんつーか、お前んとこのチビ。見直したぜ。お前、愛されてんな」

「ああ? 何の話や」

「お前、今めちゃくちゃイラついてんだろ。チビが帰ったらキレる。そうだろ?」

「どうやろな。花月の態度次第や」

「俺はそれが可哀想に思うくらいにはチビが気に入ったからよ、口止めされてんだけど、お前に話してやろうと思ってな」


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